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前回に引き続き、雪上行動に有効なチェーンスパイクの比較レビュー。後編は6本爪クランポン『フロスト』も検証していきます。

低山ハイクか?森の中の散策か?雪上に適したチェーンスパイクと6本爪クランポン(後編)

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シチュエーションを変え、起伏がある山中でも再度テスト

ここからは別の日、より雪深い場所でのテストの様子である。気温も低く、-7℃近くにも下がっていた。

しかしアイスマスターエボ、アイスマスターライトともに、この低温下でもシリコンラバーは硬くならず、フィット感は良好だった。

雪面が締まっていれば雪の深さに関係なく、歩行力はどちらも上々である。

雪山初心者は初めのうちは爪の数が多いクランポンを使わず、まずはこんなチェーンスパイクで低山を歩き、冬期登山に慣れていくのもいい。

テストとはいえ、傾斜がきつくなっていくと、チェーンスパイクでは厳しくなってくる。そもそもメーカーではチェーンスパイクを本格的な雪山登山用としては考えておらず、山での使用は限定的なのである。

しかし、これくらいの斜面、そして天候ならば、まだまだチェーンスパイクでも歩ける。もちろん、より急斜面になるとスパイクが効かず、滑落や転倒の恐れが出てくるのは念頭に入れておかねばならない。

雪の状態や気温、天気、使う人の技量など、同じチェーンスパイクを使っていても、それで乗り切れる状況は大きく異なる。だがひとつ言えるのは、どんな装備を使うにしても、雪山ではけっして無理はしないことだ。

斜面に合わせて試してみる、6本爪の軽量クランポン

僕は斜面が急になってくるころから、雪面をとらえる力がより強い別のクランポンに履き替えた。ついでにテストをしようと、わざわざ持ってきていたのである。

同じくカンプのモデルで「フロスト」。6本の爪を持つ、日本でいうところのいわゆる“軽アイゼン”である。重量はペアで555gと、アイスマスターエボよりも100g以上も重くなる。

サイズはひとつしかなく、大足の僕の登山靴に合わせると爪の位置がかなり後側にきてしまった。本当はあと数cm前のほうに爪が位置すると、登山靴とのバランスは理想的かもしれない。感覚値でいえば27.0cmサイズ前後の登山靴までに向いているような気がする。

爪の大きさ(面積)はアイスマスターエボ、アイスマスターライトの数倍もあり、高さは30mm、幅は15mmほど。それだけに雪上での安定感はチェーンスパイクよりも格段に高い。

このフロストの長所は、登山靴の幅に合わせて、クランポンの幅を調整できることだ。

上の写真のように、登山靴とクランポンの間に隙間がある場合は……。

付属のレンチでクランポンの裏に2ヶ所設けられている金属パーツを緩め、適切な位置に微調整する。

これによって登山靴のアウトソール幅とクランポン幅がしっかりと一体化し、雪面で体を安定させてくれるのだ。

もうひとつ、忘れてはならないフロストの長所が、登山靴とクランポンをフィットさせるラチェット(固定調整具)の使いやすさである。

かかとを合わせてからラチェットを登山靴にかけ、赤いコードで右側のレバーを引けばカチカチという音とともにラチェットが締まり、簡単にフィット感が強まっていく。

反対に左側のレバーを上げればラチェットが緩み、フィット感が一気に緩む。

コードやレバーはグローブをしたままでも指をかけやすい形状で、じつに使いやすい。

6本爪のフロストは、つま先付近に爪はなく、雪面に足を一歩一歩、足裏全体をベタっと置くようにしながら先へ進んでいく。

写真ではかなりの急斜面に見えるかもしれないが、実際はせいぜい25度程度。これくらいならば雪面が締まっていたテスト時は十分に登っていけた。

チェーンスパイクでは歯が立たない凍りついて氷と化した雪の上も、角度さえ急でなければフロストで難なく進める。春以降の残雪の上でも大いに活躍するはずである。

ただし、より条件が厳しいシチュエーションでは、やはり10~12本爪のクランポンのほうが安全度は高い。

フロストの裏面には、赤いアンチスノープレートもつけられている。

この日は次第に気温が高くなり、雪面が解けつつある場所もあったが、クランポンの裏に雪が固まって付着しなかったのは、さすがであった。

下り道で、アイスマスターライトとフロストを比較する

山頂から下山を開始するときには、あえて左足のみアイスマスターライトに履き替えた。

下り道での安定感を、フロストと比較してみようと考えたのである。

転ばないように注意しながらも、登りの数倍のスピードで雪面を下っていく。

登山靴をはいた足には負担がかかるが、それこそが狙いともいえる。

その結果は……。登り道以上の安定感を見せたフロストに対し、アイスマスターライトは次第に登山靴からズレてしまい、チェーンは緩んでしまった。

そもそも、前述したようにアイスマスターライトは雪山登山向けではない。起伏が少ない場所での雪中散策などに適し、その代わりに軽量でコンパクトになるタイプなのだ。また、フロストも本来は雪の急斜面は得意とせず、急峻な高山では力不足。だが、起伏が緩やかな低山や残雪の山では頼りになる。

そういう意味では、この下山時には使わなかったアイスマスターエボは、フロストとアイスマスターライトの中間的な立ち位置だ。そして、爪の本数が少ないフロストでは太刀打ちできない厳しいシチュエーションでは、今回は紹介しきれなかった12本爪程度の本格的なクランポンが必要になってくるのである。

雪上用チェーンスパイク/クランポンの使い分け

要するに、雪上での機動性が高く、厳しい環境にも強い製品は、どうしても重くなる。反対に、厳しい条件で使うことを想定していない製品は、軽量コンパクトになる。そこで機動性と軽量コンパクト性を天秤にかけ、自分に適したモデルを選ぶことが必要なのだ。その点、カンプの製品は、チェーンスパイクから12本爪クランポンまで、信頼できるモデルが多種多様にそろっている。雪の山や森に興味がある方は、今回取り上げた3モデルに限らず、自分に適したものをぜひ探してみてもらいたい。

最後に、アイスマスターエボやアイスマスターライトのようなチェーンスパイクは、自然のフィールドに限らず、普段の生活でも活躍する機会がある。

寒冷地や積雪地域に住む方は路面が凍結したときに重宝するだろうし、雪に不慣れな都心で降雪のあった翌日など路面が滑りやすい時にも、転倒防止グッズとして大いに役立つ。スキーやスノーボードが好きな方は現場の凍りついた駐車場など、日常生活のためにもひとつ持っていると思いのほか便利だ。大いに活用していただきたい。

その他、カンプ製品はこちらから【C.A.M.P.クランポン各種

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文・写真=高橋庄太郎

今回レビューした商品

アイスマスターエボ ¥8,250 (税込)

サイズ:S/36~38(EUR) M/39~41(EUR) L/42~44(EUR) LL/45~47(EUR)
シューズ対応:オールラウンド
重量:S/約425g(パープル) M/約433g(オレンジ) L/約442g(ライトブルー) LL/約450g(グレー)
※サイズごとにカラーが異なります。

アイスマスターエボ 商品詳細へ

アイスマスターライト ¥8,580 (税込)

サイズ:S/36~38(EUR) M/39~41(EUR) L/42~44(EUR) LL/45~47(EUR)
シューズ対応:オールラウンド
重量:S/約270g(パープル) M/約278g(オレンジ) L/約292g(ライトブルー) LL/約302g(グレー)
※サイズごとにカラーが異なります。

アイスマスターライト 商品詳細へ

フロスト ¥11,550 (税込)

適合ブーツサイズ:36~47(EUR)
シューズ対応:オールラウンド
重量:約555g(ペア)

フロスト 商品詳細へ