HOME > “現場主義”インプレッション > 樹林帯のトレッキングから高山の岩場まで!
ハードに使える、グランドキング「GK88」
扱いやすさが、ちょうどイイ。トレッキングタイプとライトアルパインタイプの中間に位置するグランドキング「GK88」を徹底レビュー!
樹林帯のトレッキングから高山の岩場まで!
ハードに使える、グランドキング「GK88」

登山道の地面は土、岩、砂礫、堆積した枯葉などいくつもの状況が考えられ、季節によっては雪や氷の場合もある。そんな多様なシチュエーションを一足の登山靴で歩ければいいのだが、実際は状況に合わせて数足を使い分けるのが理想だ。それが安全への大きなカギともなる。だから、登山靴には一般登山向けのトレッキングシューズ、無雪期の岩稜帯に適するライトアルパインシューズ、過酷な雪山にも対応するアルパインシューズなど、さまざまな種類が開発されているのだ。もちろん、これは便宜的なカテゴライズであり、どれとも言い難い“ 中間的 ”ポジションのシューズも数多い。
トレッキングタイプ? ライトアルパインタイプ? その絶妙な立ち位置
では、ここでピックアップするグランドキング「GK88」はどんな登山靴なのか? それはずばり、トレッキングタイプとライトアルパインタイプの中間だ。
一般的なトレッキングタイプよりもかなり硬くて頑丈な造りを持ちつつも、多くのライトアルパインタイプほどゴツくはなく、重くもない。重量は約682g(片足/26.0cm)である。
例えば、アッパーの素材を見ても、そんな絶妙な立ち位置を理解できる。
GK88には部位に合わせて数種類の素材が使い分けられているが、メイン素材は柔らかなメッシュポリエステル。その上に硬い合成皮革、スウェードレザーのパネルを張り合わせ、履きやすさと耐久性を両立させている。登山経験者ならば足を入れて少し歩いて見るだけで、トレッキングタイプよりは硬いが、ライトアルパインタイプほど硬いわけでもないという履き心地を実感してもらえるに違いない。
このまま他の部分の特徴を見ていこう。
内側のイエローの部分は、クッション性に優れた素材を包み込んだソフトなメッシュ素材。足当たりは柔らかで、吸湿性や通気性が高いのも長所である。GK88は硬めの登山靴だが、この部分のクッション性が高く、柔らかで優しい素材のため、歩行中に足首部分へ痛みを感じるようなことは少ないのだ。
GK88はハイカットの登山靴で、アッパーの丈は比較的高い。
だが、アキレス腱側だけは少し低くしている。そのために、足首を左右から抑え込んで捻挫などから守る保護力はキープしながら、足首の前後への動きは妨げられていないのがいい。
衝撃吸収性に優れる、柔らかで弾力性が高いアウトソール
トレッキングタイプとライトアルパインタイプの中間的なGK88だが、アウトソールに関してはトレッキングタイプといえそうだ。
ライトアルパインタイプは岩稜帯での使いやすさのためにアウトソールには非常に硬い素材を用いることが多く、つま先からかかとまで平面的な構造でもある。しかしGK88のアウトソールの素材はそこそこ柔らかく、つま先も少しせり上がっている。それゆえに前方へ蹴りだしやすい。これはまさにトレッキングタイプの特徴なのである。
ここで採用されているヴィブラム・アウトソールのXS-TREKは、トレッキングに適したコンパウンド配合となっているためゴム硬度が柔らかく、指で押すとたしかな弾力性を感じる。
これなら地面に食い込み、細かな突起をとらえてくれそうだ。
3層になったミッドソールのクッション性も衝撃吸収性が高い。イエローのラインはデザイン上のアクセントにもなっており、GK88をスタイリッシュなルックスにすることに貢献している。
なお、アウトソールは張替え可能。詳しくは後述するが、GK88は長く履くほどに足へなじむ性質をもつ登山靴だけに、一度くらい張り替えてからのほうがますます調子がよくなってくるのではないだろうか。
シチュエーションを変え、数度のフィールドテストへ
さて、ここからは僕が実際にGK88を履いて山を歩いてみた感想を述べていく。このレポートをまとめる前のテストは4~5回にも及んだ。
まずは初回のテストのときの様子である。
このときは登山道上に岩場もある、標高2000m前後の山に登った。
登山口から樹林帯を歩いていく。
土や落ち葉が主体の登山道を進んでいると、当初感じたのはGK88の硬さだ。おそらくアッパーとシャンク(シューズ内部で足裏に位置する芯材)が硬いために屈曲性が低く、はっきり言えば歩きにくいのである。正直なことを言えば、この時点ではこの登山靴は ” イマイチかもしれない…… ” と、僕は不安にかられていた。
しかし、ベタついた泥の上でもグリップ力は良好である。アウトソールへの泥の付着も少ない。
これはアウトソールのラグ(凹凸)の間の幅が広く、土が付着しにくい設計になっているからだろう。雨が多い季節や湿った土が多い登山道では非常に有用だ。
登山靴の硬さが生きる、岩場での体のバランス
さらに登ると岩が出てくる。
土の地面では硬さを感じるGK88だが、こういう場所ではその硬さが体重を支え、体のバランスを制御してくれる。
アウトソールとの連動で斜めになった岩の上でも体がブレず、なかなかの安定感だ。
こんな場所で足が岩にぶつかったりしても衝撃は少なく、岩の隙間に足を押し込んだりするような歩き方をしても、足への負荷は限定的である。
ランドラバーで強化されたGK88のつま先周辺は、衝撃や圧力を分散する力が高いからだ。
ランドラバーの内側のスウェードレザーの耐久性も十分そうで、よほどのことがなければ傷みはしないだろう。
GK88の内側にはゴアテックスが張られており、防水性も上々だ。テスト中に雨はなかったが、沢を渡るときにはあえて水に浸けてみたが、少々冷たさは感じるものの、浸水があるはずもない。
GK88のメイン生地であるメッシュポリエステルは透湿性を促進し、蒸れも少なかった。
……というのが、初回のテストの様子だ。これでわかったのは、登山靴としての頑丈さ、アウトソールのグリップ力、防水性と透湿性などの実力の高さである。しかし気になったのは、“硬さ”だ。アウトソールはトレッキングタイプのように柔らかいのだが、全体的に見ればかなり硬く、ライトアルパインタイプの履き心地なのである。つまり、岩場ばかりの高山では体のバランスを取りやすくてよいが、樹林帯主体の低山では軽やかには歩けない。“ 使いやすい山は限られているかもしれない ” “ 低山主体で考えるならばキャラバンブランドで展開している【C1_02S】の方がよほど歩きやすい ” というのが、初回テストでの僕の実感であった。
その感想はテストを繰り返していくことで、次第に解消され変化していくのだが……。
2回目以降はハーフインソールを追加! より向上した履き心地
次からは初回以降のテストの様子を、ミックスしてお伝えしていく。
テストの場は、初回と同じような岩場がある標高1500m前後の山。そして登山道の多くが森林限界を超えている、標高2000m前後の山などである。
季節は秋から初冬であった。
ところで、GK88は甲の部分にテープシューレーシングを用いている。これは足全体のフィット感を高める工夫である。
しかし初回のテストのとき、僕はGK88のフィット力にわずかながら違和感を持っていた。少し緩い感じがしたのである。フィット感を高める工夫自体には間違いがなさそうだが、足型が僕の足には少々大きいのかもしれなかった。
実際、靴紐を強く締めつけるとアッパーのメッシュポリエステルの生地がかなり余り気味なっていた。
そこで2回目以降のテストには、付属品のハーフインソールをGK88に組み合わせて使うことにした。
これはつま先部分のみの、文字通り“ハーフ”サイズの中敷きだ。この分だけ登山靴内部のスペースが埋まり、僕のように緩さを感じた人でもフィット力が向上するのである。
それでも見た目上は生地の余りが減った感じは少ないが、自分自身の体感としてのフィット感はアップした。
歩行中のズレが減ったのがわかり、履き心地はいっそう高まった。
細かな部分まで考えつくされた、アウトソール
GK88のグリップ力は、初回テスト以降も上々である。アウトソールは少しずつ摩耗しているはずだが、それがむしろグリップ力の向上につながっている。
とくに岩場でつま先を使う際の安定感は高く、不安なく歩けるのがすばらしい。
その理由のひとつが、GK88のつま先部分だ。
アウトソールには、細かな岩の突起をとらえられるようにと平面的に設計された部分がある。要するに、岩場や雪の上で活躍するアルパインタイプ、ライトアルパインタイプのような登山靴が持つ “ クライミングゾーン ” のようなスペースが設けられているのである。
かかとの部分も同様だ。これらの部分が、岩場での安定性の高さに貢献しているのは言うまでもない。
また、些細な点だが、岩場向けのライトアルパインタイプならば、アウトソールの前足部と後足部の間にはラグがないのが一般的だ。しかしGK88はかかととの段差の近くまで凹凸がつけられているのがユニークである。
歩行中にはあまり地面や岩には接しないはずのこの部分でまでグリップ力を高めようとしているとは、ちょっと感心させられた。
積雪期用ではないが、ある程度の雪ならば冬場も残雪期もOK
雪が降った日にもテストをしてみた。
保温材を使用せず、アウトソールが柔らかなGK88は雪山用の登山靴ではない。だが、厚みのあるアッパーには多少の断熱性はあり、6本爪程度のクランポン(軽アイゼン)も取り付けられる。
シューズ全体が雪に埋まるようなシチュエーションでもなければ、活躍する機会はある。状況に応じて、雪のある場面で使ってもよさそうだ。
GK(グランドキング)の真の実力が発揮されるのは、“ 履きならし ” の後!
さて、テストを繰り返すことでわかったことがある。
それは、GK88には “ 履きならし ” が非常に重要だということだ。
初回のテスト時点での実感として、僕は樹林帯のなかで使うには「硬い」「歩きにくい」と率直に書き記した。しかし、その感想はテストを繰り返す毎に減少していっていた。歩き続けることでGK88全体が僕の足に合わせて柔らかさを増し、初回に感じていたような違和感がなくなったのである。
すると、当初は使いにくいと感じていた樹林帯も軽やかに歩けるようになり、歩行感のよさは格段に上昇。僕はGK88の真の実力を危うく見逃すところであった。
現代の登山靴にはもともと柔らかなものが多く、履きならしをしなくても違和感なく使えるものも存在する。そういうタイプを履き慣れた人がGK88を履くと、初期の段階ではその硬さを短所に思う可能性は高い。だが、履き続ければその硬さは徐々に減っていき、履く人に合わせたフィット感が生まれてくる。その段階までいけば、GK88の本当のよさが感じられるはずだ。登山店などで試し履きをする場合、GK88を試着したときに少々硬いと感じても、そのままずっと硬い履き心地が続くわけではないことを知っておいてほしい。
もともと登山靴というものは履きならしてから使わねば、真の実力は発揮されないのだから。
履きならしたGK88はトレッキングタイプのように樹林帯も快適に歩ける。一方で、ライトアルパインタイプのように少々ハードな岩場にも強い。使い始めの硬さを乗り越えたときこそ、GK88の本当のよさを理解できるに違いない。
文・写真=高橋庄太郎
