HOME > “現場主義”インプレッション > 軽量性と強靭さを併せ持ち、ちょっとハードな山行にも。ザンバラン『バルトロライト GT』

今回ピックアップする登山靴は、本場イタリア老舗登山靴メーカーのザンバラン「バルトロライト GT」。岩稜帯で使いやすいライトアルパイン系シューズと、一般登山に向くトレッキング系(バックパッキング系)シューズの中間的モデルをレビュー。

軽量性と強靭さを併せ持ち、ちょっとハードな山行にも。ザンバラン『バルトロライト GT』

世界的に見れば、日本の国土はそれほど広くはない。だが、そのなかには急峻な岩場や氷河まで抱える3000m級の高山をもち、麓には深い森が広がっている。日本は“山岳国”としては世界有数で、それだけに登山靴はさまざまな環境下で活躍するタイプのものが好まれる。

今回ピックアップする登山靴は、本場イタリア老舗登山靴メーカーのザンバラン「バルトロライト GT」。“ライト”という言葉が入っているのは、ザンバランには以前から「バルトロ GT」という人気モデルがあり、このバルトロライト GTは文字通り、そのライトバージョンであるからだ。見た目は“色違いかな?”と思うほど似ているが、重量はバルトロ GTが約800g(EUR42片足)であるのに対し、バルトロライト GTは約625g(EUR42片足)。じつに175gもの差がある。もちろん、これだけ軽量であるということは、高山向きのバルトロ GTほどは堅牢な構造ではなく、低山にも目を向けたシューズということでもある。

視認性も良好! 歩行性をアップするソフトなアッパー剛性

はじめに全体の特徴を把握していこう。

バルトロライト GTは“ライト”とはいえ、アッパーのメイン素材は革厚2.2~2.4mmという強靭なレザーだ。しかも高度な革加工技術で有名な、ペルワンガー社製の高品質レザーを使用している点も見逃せない。

岩場や雪の上でも視認性が高い鮮やかなブルーで、スタイリッシュなルックス。全体的にスリムで、岩場でも邪魔にならない。岩稜帯で使いやすいライトアルパイン系シューズと、一般登山に向くトレッキング系(バックパッキング系)シューズの中間的な存在といえるだろう。

つま先は軽量ラバーで覆われ、強化されている。多くの登山靴はこの部分に厚みのあるラバーを使っていることが多く、そのために強靭にはなるが、重量増の一因ともなっている。

軽量ラバーは強靭さでは厚みのあるラバーにかなわないが、軽量性に秀でている。指で強く押せば湾曲するほどの硬さなので、歩行中の動きに合わせて歪み、歩きやすさをアップすることに貢献している。かかとも同じ軽量ラバーだ。

見た通り、つま先にもかかとにもワンタッチアイゼンやセミワンタッチアイゼンをつけるためのコバはない。コバを設けるためには、その部分に重量増の一因になる硬い樹脂を使わねばならないが、バルトロライト GTはこの点からも軽量化を図っているのだ。もちろん、ストラップベルトで取り付けるタイプのアイゼンやチェーンスパイクは取り付けられ、雪上にも対応できる。

シューズ内部にはインソール(フットベッド)が入れられている。かかとを適切な位置にホールドし、立体的な構造で足裏のアーチを押し上げる働きがある。

しかし、それほどクッション性が高いタイプではない。現代の登山靴にはもっとソフトでクッション性が高いものも多く、そのようなタイプに慣れている人には少し物足りない可能性もある。その場合は、クッション性と圧力分散性能に優れた『ソルボインソール』などに変えてもいいだろう。

程よく締め上げるシューレースで、上々のフィット感

シューレースは足の指の屈曲部分まで配置され、Dリングとアイレットのコンビネーションで、しっかりとフィットさせられる。

それほど強い力で引っ張らなくても程よく締まっていき、とても使いやすい。

足首の屈曲部分からくるぶしにかけては、フックを使ってシューレースを留めていく。このあたりは一般的な登山靴と同様だ。

しかし、フックにもいくつかのタイプがある。大別すれば、フックの隙間がキツめでシューレースを引っかけるだけで固定できるタイプと、フックの隙間が緩めでシューレースが滑りやすいタイプだ。アルパイン系シューズには足首の屈曲部分に固定できるフックを使ってつま先方向のフィット感は高め、それよりも上には緩やかなタイプを使ってフィット感の調整をしやすくしているものが多い。その点、バルトロライト GTはすべてのフックが緩めのタイプだ。これはトレッキング系シューズに多い特徴で、シューズ全体で均一に包み込まれるような感覚でフィット感を高められるものである。

足首の部分にはV字型スリットを入れつつ、コーデュラナイロンを使用。レザーとの使い分けで屈曲性を高める工夫である。また、このコーデュラナイロンは足首やタンにも使われ、ライニング素材として使われているゴアテックスと連動して透湿性を高めている。

レザーというものは基本的には透湿性を持たず、オールレザーのシューズはどうしても蒸れやすい。だが、バルトロライト GTは透湿性が高いコーデュラナイロンを使用している面積も広いため、今回のテストの際にはシューズ内部が蒸れる感じがあまりしなかった。

多くの日本人に合いやすい、少し幅広の足型

スリムに見えるバルトロ ライト GTだが、足型には一般的に“甲高幅広”といわれる日本人に合いやすい幅広のものが使われているようだ。以下の写真は僕がシューズに足を入れたときの状態だが、よく見るとシューズの先端部分のレザーがわずかに盛り上がっているのがわかるだろうか?

じつは僕自身はそれほど“幅広”の足ではない。言い方を変えれば、多くの日本人よりは幅が狭いのかもしれない。そのために、少しだけつま先部分のレザーに余りが出て、盛り上がっているように見えるわけである。
だからといってフィット感が損なわれているような感覚はなかった。これはシューレースでしっかりと左右から押え込み、十分にフィットさせられているからだろう。

足首まわりの内側はメッシュ素材。通気性のアップに加えて、シューズ内部の乾燥を速める効果を持っている。

クッションパッドが入って弾力性が高く、シューレースを強く締めてもほとんど違和感を覚えないのがいい。

優れたグリップ力で、一般登山道はもちろん岩場まで

ここからは、実際にフィールドでテストしたときの感想を中心に述べていきたい。

“ライトアルパイン系寄りのトレッキング系シューズ”というバルトロライト GTの立ち位置は、森のなかから高山の岩場まであるようなバリエーション豊かな日本の山に向いているのは間違いない。もちろん、冬山ではもっと強靭で保温性があるもの、里山のような場所では身軽に動けるもっと柔軟でより軽量なタイプのほうが良いとはいえる。だがこのバルトロライト GTのようなタイプは非常に汎用性が高く、これ一足で大半の登山はまかなえそうである。

実際、土の地面や草の上でのグリップ力は申し分ない。

見た目以上に柔らかなアッパーは足の動きに合わせて程よく曲がり、足への負担も少ない。

少々苔むしている石の上でも滑りにくかった。

よほど濡れているような場所ではさすがに滑ってしまうが、多くの場所では難なく歩いていける。

アウトソールが柔らかいため、石や岩の凹凸を足の裏で感じやすいのも利点だ。

ミッドソールの弾力性と相まって、衝撃を吸収する効果も高いようであった。

柔らかめのソールとアッパーが生みだす山中での実力

バルトロライト GTのアウトソールには、ヴィブラムStarLiteというものが採用され、柔らかめのラバーはシューズの屈曲性を高めることにも貢献している。

つま先部分は少し狭まっており、足場が少ない岩場でも足さばきしやすいタイプだ。

一方で、つま先部分には、いわゆる“クライミングゾーン”は設けておらず、横方向のブロックパターンになっている。

クライミングゾーンとは、アウトソール先端部分をあえて平面的なパターンにして岩の細かな突起をとらえやすくするための工夫だが、横方向のパターンをもつバルトロライト GTはそれよりも前方への推進力を重視している印象だ。ライトアルパイン系シューズのような見た目を持つバルトロライト GTだが、この特徴も実際はトレッキング系モデルであることを示している。

とはいえ、岩場に弱いわけではない。クライミングのようなシチュエーションはともかく、北アルプスの稜線のような岩ばかりの場所でも、接地場所が乾いていればスリップなく歩けるのである。

ただし、アウトソールは柔らかめということもあり、岩場を長時間歩いていると摩耗しやすい。だが、バルトロライト GTのアウトソールは張り替え可能だ。スリップしやすくなったと感じたら、早めの張替えをお勧めする。

ソフトなレザーは、足首の屈曲性もよし!

バルトロライト GTの柔らかなアッパーは、足首を前後左右に屈曲させたときの圧迫感も少なかった。

繰り返すが、見た目は硬そうなバルトロライト GTだが、じつはレザー主体のシューズとしては、驚くほど柔らかいタイプなのである。

その分だけアッパーを岩などに強くぶつけると、その硬さや凹凸の鋭さが直接的に足に感じられる。つま先の軽量ラバーも硬くはないので、衝撃も伝わってきやすい。

そのあたりの感覚を好まない人には、より強靭な構造を持つ『バルトロ GT』を選ぶべきだ。やはりバルトロライト GTは、バルトロ GTを少しきゃしゃにする代わりに、軽量性と柔らかな歩行性をアップさせたものだと考えたほうがいい。

ところで、若干気になったのは、歩行中にときどき左右のシューズのフックがぶつかることだった。足首の屈曲部分のフックがいくぶん側面に配置されているためである。

フック同士が引っかかることはないので、転倒の原因にはならないが、この点が少し気になる人がいるかもしれない。

無雪期を中心に、状況によっては残雪の上でも

とある山では雪の上も歩いてみた。そのときに感じたのは、雪質が柔らかければ大きな支障はないが、雪質が硬い場所ではさすがにスリップしやすいということだ。

バルトロライト GTはアウトソールとアッパーが柔らかいので、つま先で雪を蹴りこんで歩くような場面には適していない。滑りやすいうえに、足に大きな負担がかかってしまうのである。残雪の上で使用するような場合は、アイゼン類やチェーンスパイクを併用したほうが快適で安全性の向上にもつながる。

しかし、防水性は十分だ。雪解け水や雨、水たまりや水辺を通過する場合でも、シューズ内に水が浸透することはない。さすがはゴアテックス仕様である。

長時間アッパーを濡らしながら歩いていると、レザーの撥水性は次第に低下していくものであり、そのあたりはバルトロライト GTも同様である。だが、水の浸透は表面だけであり、アッパーの乾燥のスピードはかなり速かったことはお伝えしておきたい。

このような感じで、僕は昨年の夏から初冬にかけて何度もバルトロライト GTのフィールドテストを繰り返した。全体的な履き心地は良好であったが、バルトロライト GTは無雪期用のシューズであって保温性には欠け、気温が低いときに履いていると冷たさは感じる。やはり積雪期には季節に応じた別のシューズのほうがよい。同じザンバランであれば、例えば保温性能も備えている『ブレンヴァ GT』などだ。

ともあれ、僕のバルトロライト GTに対する最大の印象は、「軽量性と強靭さを高いレベルで実現させている」ということだ。先に説明したように、その立ち位置は「岩場に向くライトアルパイン系シューズ寄りのトレッキングシューズ」。多様なシチュエーションに適合するシューズではあるが、岩場が多い高山にも足を向けることが多い、ちょっとハードめの登山を好む人にはとくに気に入られそうである。

文・写真=高橋庄太郎

今回レビューした商品

バルトロライト GT ¥41,800 (税込)

898ブラック/ブルー 全1色
EUR40-48(約25.0-29.0cm)

バルトロライト GT 商品詳細へ