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北アルプスや南アルプスのような高山の岩稜帯や残雪の山などに適する、いわゆるライトアルパイン系と称されるタイプの登山靴Zamberlan『デュフールEVO GT』をレビュー。
安心感をもって、憧れの高山の岩稜帯へ!安定性バツグン、Zamberlan『デュフールEVO GT』

春が過ぎ、日照時間が次第に長くなるにつれ、低山は新緑であふれ、高山では雪解けが進んでいる。今年はどこの山に登ろうか計画を立て、難易度が高い憧れの山に挑戦しようと考えている方も多いに違いない。
今回ピックアップする登山靴はザンバランの【デュフールEVO GT】だ。
北アルプスや南アルプスのような高山の岩稜帯や残雪の山などに適する、いわゆるライトアルパイン系と称されるタイプの登山靴である。
高山の岩場に向く、強靭な“ライトアルパイン系”
では、はじめにその特徴をざっと把握しておこう。
『デュフールEVO GT』はライトアルパイン系の登山靴だけに、全体が非常に堅牢な構造になっている。アッパーは1.8~2.0mmもの厚みをもつハイドロブロック・ベルワンガーレザーとコーデュラナイロン、そしてスーパーファブリックのコンビネーション。耐水性や透湿性などによって使用箇所を変えつつも、すべて強靭な素材だ。重量は片足約744g(EUR42)と、トレッキング系の登山靴と比べれば軽くはないが、同クラスのアルパイン系シューズとしては軽量である。
アウトソールは緩やかな地形に適したトレッキング系の登山靴のようにつま先やかかとが丸く湾曲せず、比較的平面的だ。これは地面を蹴って前進することよりも、岩の上での安定性を高めることを重視しているからである。
ヴィブラム社の“Mulaz EVO”を使ったアウトソールは非常にグリップ力が高い。
また、岩場で使っていても摩耗しにくいのが長所だ。
詳しくは後述するが、つま先にはいわゆる“ クライミングゾーン ”が設けられている。
足先からかかとまでラウンドラバーがぐるりと覆い、つま先部分でアウトソールと一体化。これはかなり硬い素材で、岩に足をぶつけたときの衝撃を和らげ、足全体をしっかり守ってくれる。
シューレースはつま先の先端近くまで配置されている。登山靴と足にわずかでもズレがあると急峻な岩場では体のバランスがとりにくくなるため、足先まで緩みをなくし、可能な限りフィット感を高めるためだ。つまり、重大事故を引き起こさないためのデザインなのである。
トップクラスの頑丈さが導く安全性と安心感
アッパーは足首を確実に守るハイカット。シューレースを締めると足首の関節が完全に固定され、アキレス腱側を少し低くすることで屈曲性にも配慮している。
また、かかとの部分にはコバが設けられ、セミワンタッチ式アイゼンが装着できるようになっている。
シューレースは、つま先から足の甲まではテープ使いのシューホールに通し、屈曲部分から足首はフックにかける仕組みだ。
このフックは、シューレースを締めると足首の横ではなく、前のほうに位置する。そのために、周囲の岩や草、反対側のシューレースなどに引っ掛かることがない。
内部には立体成形されたインソール(フットベッド)が付属されている。
かかとの収まりがよく、クッション性も持っており、疲れにくい。
このような特徴を持つデュフールEVO GT。僕が感じた最大のポイントは、やはりとにかく強靭で頑丈だということ。他メーカー含めた多様なライトアルパイン系登山靴のなかでも、デュフールEVO GTの頑強さはトップクラスではないだろうか。足を守ることは、すなわち山での安全度を高めること。
この安心感は得難いものがある。
岩場と森林、そして沢……。状況で異なる履き心地
さて、デュフールEVO GTを含むライトアルパイン系の登山靴は、岩場や残雪の上で力を発揮するが、全体が硬いこともあって、森の中の緩やかな登山道や木道の上などでは使いにくいこともある。
今回テストした山は、稜線や尾根は岩稜帯だが、山麓は樹林帯。柔らかな地面の上でもデュフールEVO GTで難なく歩いて行けるが、こういう場所ではオーバースペックともいえるアッパーとアウトソールの硬さは少し気になる。長時間歩いていると疲れそうだ。
沢にかけられた木の橋を渡る。表面には苔が生え、少しヌルついていた。
どのようなタイプの登山靴でもこういう場所では滑るもので、デュフールEVO GTも例外ではない。
だが、アウトソールのかかとの段差を丸太にかければ、ある程度は滑りを抑えられた。
沢を渡るときも同様で、岩が濡れているとグリップ力が低下し、どんな登山靴でも滑りやすい。
こんな場所ではつま先をしっかりと岩へ引っ掛け、スリップを止めて歩いていく。
それでも少しは滑ってしまうが、足全体がラウンドラバーで守られているため、岩にこすれても痛みは感じないのがいい。
ゴアテックスを使ったライニングのおかげで、防水性は間違いない。
長靴のように足首の上くらいまでアッパーが延びているおかげで、水深15cmくらいまでは浸水の恐れはなく、水を気にしないで歩くことができる。これならば雨の日も安心だ。
表面の撥水性も申し分ない。
素材はほとんど水を吸い込むことがなく、たとえ雪解けが進む残雪の上でも冷たさを感じにくいはずである。
さすがのグリップ力! 真価を発揮する急峻な岩場
森を抜け出ると、岩場が現れた。当分は登り道が続く。
僕は足首の屈曲部分よりも上はシューレースを少し緩めに締め、足首が曲がりやすいように調整して先へと進んだ。
デュフールEVO GTのフックは、足の屈曲部(いちばん下)のみ、少し開きが狭い。そのために、その部分にシューレースを引っ掛けると、シューレースが挟み込まれて緩みにくくなり、つま先から甲の部分までは常にフィット感が維持される。
一方、それよりも上のフックは開きがわずかに緩い。足の動きに合わせてシューレースがスライドするので、フィット感をキープしながらも足首は曲がりやすい。
アウトソールのグリップ力は上々だ。
それほど急峻な岩場でなければ、足首が十分に曲げられるように緩めにしていても、ほとんど滑ることはない。まるで岩に吸い付くような感覚だ。
ただし、横向きの体重移動には少し弱い。これはどんな登山靴にも言えることだ。
だが、デュフールEVO GTはアッパーが硬く、形状が安定している。そのため、シューレースを緩めに調整していても、捻挫を起こすほど足首が過度に曲がることは少ない。こういう点でも安心感が高いのである。
アッパーの硬さとハイカットが生み出す難所での安定性
下り道では、登り道以上に捻挫しやすい。
下りが続く場合は、面倒でもシューレースを締め直し、足首をさらにしっかりと守る必要がある。
こういう場所でもデュフールEVO GTの安定感は抜群であった。
シューレースを上まで締め上げると足首は完全に固定され、まるでギプスをしているようなホールド感。
おかしな表現になるが、捻挫をしたくても、できるような状態ではなくなっている。
これだけの安定性があると、一歩間違えば滑落しかねないような岩場の上でも体のバランスがとりやすい。
柔らかで湾曲したアウトソールのトレッキング系の登山靴では、滑ってしまいそうなシチュエーションだが、こういう場所こそデュフールEVO GTがもっとも活躍するのである。
先ほど述べたように、森のなかでは少々歩きにくいことは否めない。
だが、命の危険性が格段に高い岩稜帯での安全性は段違いだ。
デュフールEVO GTのつま先は、細かな岩の凹凸も捉えてくれるおかげで、急峻な岩場ではますます安心して使えた。
硬度の高いインソールボードを採用していることでアウトソール全体が硬く仕上がっているため、岩の上につま先がかかるだけで全体重を乗せることができ、スムーズに進んでいくことができる。
以下の写真はアウトソール先端の“ クライミングゾーン ”だ。
あえてソールのミゾを減らして平面的にすることで、小さな岩の突起も捉えられるようになっている。
ちなみにデュフールEVO GTは、かかとの部分もミゾを減らしている。
この部分にもクライミングゾーンを持つ登山靴は少数だが、デュフールEVO GTはかかとでも岩の凹凸を捉えやすくしているわけである。
活躍の場は高山の岩場。3000m級の山々を目指せ!
岩稜帯でのデュフールEVO GTの安定感はすばらしかった。
硬いアッパーと滑りにくいアウトソールのコンビネーションで岩場でも体が安定し、つま先をどこかに引っ掛けられれば体重をかけられる。難所でも安全かつスピーディに行動できることを実感した。
ただし、デュフールEVO GTの強靭極まる構造は、森林限界を超えた岩ばかりの高山、つまり危険度が高い場所での安全性を高めるためには非常に適しているが、森林限界以下の危険度が低い場所では疲れをもたらす一因ともなることは頭に入れておいたほうがいい。
岩場が少ない山では、同じザンバランでも「バルトロライト GT」やグランドキングの「GK85」などのほうが歩きやすいだろう。だが、憧れの高山の岩稜帯を目指すなら……。このデュフールEVO GTの出番。一般的なトレッキング系登山靴と使い分けるのが一番よいだろう。
文・写真=高橋庄太郎
