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今回ピックアップしたのは、レキの新作モデル「ブラックシリーズFXカーボン」と「レガシーライトAS」。持ち味が異なる2モデルを山道で徹底調査。
ハイエンドか、リーズナブルか?使う人の考え方で選べるレキの新作トレッキングポール

両手に持って地面を突くことで、本来は“二本足”歩行の人間を“四本足”歩行に変え、足腰への負担を激減させ歩行バランスを整えるのが、トレッキングポールだ。
僕はかれこれ25年以上、さまざまなモデルを使ってきた。使い慣れれば慣れるにしたがって2本のポールは自分の手の延長のように地面をとらえ、いまや無意識のうちにポールを操って地面に合わせた歩き方ができるほどである。そう考えると、先ほど「二本足歩行を四本足歩行に変える」などとは書いたが、僕自身の実感としていえばトレッキングポールは“地面に届くほど手が長くなる”山道具とも言えそうである。
今回のテストのためにピックアップしたのは、レキの新作モデル「ブラックシリーズFXカーボン」と「レガシーライトAS」だ。コルク製のグリップとブラックのカーボンシャフトを持つ「FXカーボン」(写真下)は三段折りたたみ式。グリーンのアルミ製シャフトが「レガシーライトAS」(写真上)で、こちらは伸縮式である。より詳しい特徴は、これから説明していきたい。
まず大前提としてお伝えしておきたいのは、これら2モデルの「レキ」ブランド内での立ち位置だ。FXカーボンは同社を代表するフラッグシップモデル。軽量な素材や細部まで凝ったディテールを持ち、はっきり言えば価格もなかなかの高級品。それに対し、レガシーライトASは要所をおさえた新製品ながらも買いやすい価格に抑えてある。両者を比べたときに、より機能性が高いのはFXカーボンであり、よりリーズナブルなのがレガシーライトASであり、持ち味が異なる2モデルなのである。
使用するときの長さや適応身長が異なる2モデル
ともあれ、以下は伸ばした状態だ。
左のFXカーボンは最長で130㎝、最短で110㎝という範囲で使用でき、長さの調整は後述する「スピードロック2プラスシステム」でおこなう。
一方、レガシーライトASは最長125㎝で、最短90㎝。伸縮式の3本シャフトのため、FXカーボンよりも調整範囲が広く、これも後述する「スピードロック・プラスシステム」がつけられている。
なお、使用する人の身長の目安は、FXカーボンが155~185±5㎝。レガシーライトASが130~180±5㎝。使用時の長さに比例し、背が185㎝以上の人はFXカーボンが使いやすく、155㎝以下の人はレガシーライトASのほうが適しているということだ。もちろんこれは目安でしかなく、使い方にもよるだろう。
次にグリップを比較してみたい。
左のFXカーボンはエルゴンサーモロング、右のレガシーライトASはエボコンサーモというグリップが採用されている。
どちらも柔らかなEVA素材で、エルゴンサーモロングのほうはヘッド部分を空洞にして軽量化を計っている。同様にどちらのグリップも“サーモ”というだけに、寒い時期に握っても冷たさを感じない。
2モデルを比べると、FXカーボンはコルク部分とつながっているEVAが長く、グリップ名にも“ロング”という単語が入っている。そのために状況に応じてストラップから手を外し、短く持ち直すことも可能だ。
だから、レガシーライトASよりも応用度が高い使い方ができる。
なお、トレッキングポールを正しく使うためには、ストラップの調整が不可欠だ。
このストラップは上に引き上げるとロックが解除され、下げると固定できる仕組みで、長さの調整が実に簡単に行える。2モデルに共通する仕様だ。また、ストラップはスキンストラップといわれる非常に薄いタイプ。手首に食い込むことがなく、肌触りが良いうえに濡れても乾きが早い。上の説明カットではFXカーボンを使ったが、これも共通する仕様である。
“スピードロックシステム”で長さの調整がカンタン!
長さの調整は、どちらもスピードロックシステムでおこなう。これはレバーを(開閉)上げ下げするだけでロックが解除され、スムーズに長さの調整ができる仕組みだ。使い続けているとレバーの固定力が緩んで落ちてくることもあるが、その場合はダイヤルを回せば、すぐに適度な固定力へ調整することができる。
ただ、両者のスピードロックシステムは微妙に違う。FXカーボンに採用されているのは、正確にはアルミ素材を組み合わせた「スピードロック2プラス」で、レガシーライトASはプラスチック素材を用いた「スピードロックプラス」。FXカーボンには「2」という数字が入っている。これはダイヤルを緩めすぎても落ちて外れないように改良されたことから、進化の意味を表すため「2」を加えたようである。
(スピードロックプラスは、すでにダイヤル脱落防止機能が施されている)
先端のパーツを分解すると、このような感じになる。
尖った金属部分が“石突き”。その上は先端が岩の隙間に深く刺さったり、土中深くめり込んだりしないようにするバスケット。下がスリップレスラバーロングである。
カーバイト素材で作られた石突き先端は、とても精巧な形状をしていて岩場などでも抜群のグリップ力を誇っている。
スリップレスラバーロングとは、先端に付けるキャップ(金属チップの石突きをカバーするプロテクター)だ。
以前は歩行中にこれが外れて紛失しやすかったが、現在は内側に金属のリングをはめ込むことで脱落が防止されている。この工夫がなされていない昔のトレッキングポールは、いまだにキャップを落としやすいが、現在のレキの製品では、その心配をする必要がない。
ただし、キャップを外して岩稜帯などで使用し続けていると徐々に石突き部分を含めてフレックスチップ部分が削れてやせ細ってくる。そうなるとキャップ固定の抵抗力が弱まり落ちやすくなってしまう。先端部が泥等で汚れていても同様だ。
もし、しっかりキャップをはめ込んでも抜けやすい場合は、フレックスチップが削れてやせ細っていないか、泥等で汚れていないかを確認したい。
最新の機能を備え、軽量コンパクト!「FXカーボン」
共通点を踏まえたうえで、ここからはFXカーボンの説明に移る。
FXカーボンは折り畳むと、わずか40㎝。
バックパックのサイドポケットなどに差し入れても持ち運びしやすい長さだ。
重量は2本組で約456g。さすがは軽量素材のカーボンをメインに使っているだけのことはある。
ただし、傷みやすい連結部分にはアルミ素材を併用している。
こういうところで割れやすいカーボン素材の弱点を補っているわけである。
上の写真のグリーンの部分を見てほしい。これはコア・ロッキングデバイスという仕組みだ。シャフトを引っ張るだけでロックが固定および解除され、3本のシャフトが簡単に一直線に伸ばせたり、すみやかに3本に折れたりできる。使い慣れていないときは操作方法がわからない方もいるようだが、一回試してみれば誰もが難なく使えるようになるはずだ。
FXカーボンにはスタッフバッグが付属している。
レガシーライトASにはついていないのだから、こんなところもちょっと“高級”なのだ。
必要十分な機能でリーズナブル!「レガシーライトAS」
次にレガシーライトASである。
これはFXカーボンよりも構造がシンプルで、素材も比較的安価なアルミが主体である。収納時の長さは64㎝、重量は2本組で約502gだ。大型バックパックならばサイドに取り付けてもそれほど邪魔ではないが、中型/小型バックパックに取り付けると、ちょっと主張しすぎる長さかもしれない。
レガシーライトASの利点は、3本に分解できることだ。アルミ素材は濡れたまま保管していると白錆びが浮いてくるが、分解できれば乾燥は早く、メンテナンスもしやすい。カーボンがメインで金属部分が少ないFXカーボンは錆びにくいとはいえ、構造上、レガシーライトASほどすばやくは乾燥させられないのである。
リーズナブルなレガシーライトASだが、僕が好きな機能がしっかり搭載されているのはうれしい点だ。
それはアンチショックシステム。シャフトにも、その旨が誇らしげにプリントされている。
実際にアンチショックシステムがつけられているのは、先端近くだ。
アンチショック構造が備え付けられている場所は、バスケットの上のグレーの部分である。その使い心地に関しては、後ほどお伝えする。
山中での使い心地は? それぞれの機能性を両手で試していく
それではそろそろ本格的なテストへ移りたい。
僕はこれら2モデルのトレッキングポールを持ち、実際に山を歩いてみた。
ここから登場する写真のなかで、僕は基本的に“左手にFXカーボン、右手にレガシーライトAS”を持ち、2モデル同時にテストしている。片手ずつ別のモデルを使ったほうが、それぞれの個性がわかりやすいからだ。
グリップを握った様子がこちら。肌に触る素材がコルクかエルゴンサーモかの違いはあるが、どちらも肌なじみがよく、違和感がない。高級感が高いのは、もちろん天然素材のコルクタイプだ。しかし意外とエルゴンサーモよりも硬く、ザラついた感じもある。
僕が思うコルク素材のよさは、肌触り以上に、手に持ったときの“温度感”だ。EVAは手が冷えにくい素材だが、考えてみれば夏は温かく感じる必要はない。その点、コルクのほうが比較的クール感があり、気温が高いときには快適なのだ。とはいえ、発泡素材のような質感のコルクは冷たくもならない。だから気温に左右されず、つねに握りやすさをキープしてくれるはずである。FXカーボンのコルク製グリップは見た目もよく、僕も気に入ってしまった。
手に持ったときの振り心地も試してみた。左はFXカーボンで、右がレガシーライトASである。
すぐにわかるのはFXカーボンの軽さだ。これなら長時間使っていても疲れにくい。実のところ、軽さを強調したトレッキングポールは他社品にも存在している。そのなかでもレキのトレッキングポールは、軽さだけでなく耐久性や操作性、振り子バランスが抜群に優れているように感じる。腕の力に自信がない人にはFXカーボンの軽量さは魅力的だろう。一方、レガシーライトASはわずかに重い感じがする。
とはいえ、その重さによって振り子のようにトレッキングポールが自動的に前後に移動し、思ったほどは力を使わないこともわかる。僕自身は、むしろレガシーライトASの振り子の動きのほうが好みかもしれない。
先端部とグリップ、それぞれがもつ工夫
登山道では、先端にはつねにスリップレスラバーロングをつけていたほうがいい。地面の植物を傷めにくく、登山道を無用に掘り起こすこともなくなるからだ。ラバーなので、クッション性が高まることにもつながる。しかし石ばかりの場所や雪上では、石突きを露出したほうが滑りにくいこともある。
今回は状況に合わせて脱着しながらテストしたが、どちらの状態でもまったく問題なく使用できた。
ただし、クッション性で言えば、レガシーライトASのアンチショックはやはりいい!
先端を地面に押し付けて体重をかけると、グレー色をしたエラストマー衝撃吸収素材の部分が沈み込み、地面からの衝撃を緩和してくれるのだ。レガシーライトASは安価なのに、アンチショックがつけられているとは大したものである。しかも、金属バネとはちがい跳ねっ返りの反動もない。
登山道が急斜面続きの場合は、トレッキングポール自体を短く調整して使ったほうがいい。スピードロック2プラス/スピードロックプラスが使われている今回の2モデルならば、その作業も簡単だった。
だが急斜面が長く続かず、一時的な場面だけならばFXカーボンのロンググリップが役立つ。
以下の写真のように、ストラップから手を外せば、30㎝近くも下を握ることができるのだ。
ただし、このように短く持つと、ストラップから手を外さねばならず、ストラップに体重をかけることができない。いつもストラップに体重をかけて歩くクセがついている僕は、このように短く持って使うことは少なかったりする。この持ち方ができるのは便利だが、そのようなことも考えながら使ったほうがよさそうだ。
そんなグリップ部分には、2モデルそれぞれの個性がよく出ている。
もっともわかりやすいのは、ヘッド(先端)の部分の大きさだ。
FXカーボンのグリップの先端は前方にかけて、かなり大きい。しっかりと握った状態でも指の太さ以上に前へ飛びだしているので、写真のように岩へぶつかっても、指が痛まない。
岩場でもトレッキングポールをよく使う僕には、このFXカーボンのグリップは本当にありがたい。
グリップのヘッドが突き出ていることを利用して、手の代わりに岩へ押し当てて体のバランスを取るような歩き方もよく行っているからだ。
それに対し、レガシーライトASのグリップのヘッドは小さい。
そのために岩にぶつかると指が保護されず、ダイレクトに当たってしまう。
注意しながら行動すれば、このように手が岩にぶつかることはないだろうが、FXカーボンのほうがやはり安心して使える。
また、FXカーボンはグリップのヘッドが手の平に収まりやすい大きさで、一時的にトレッキングポールを長めにして使うことも、ヘッド部分を上から握って使用することも可能だ。
しかし、レガシーライトASはグリップのヘッドが小さく、手の平のなかに収まっても空間ができてしまい、体重をうまくかけられない。グリップに関しては、さすがレキのフラッグシップモデルだけに、FXカーボンのほうが優れているといわざるを得なかった。
“登山の相棒”に適しているのは、さてどちら?
じつは2モデルの価格は単純に倍以上も違う。素材や収納方法などの好みにも左右されるが、予算に余裕があれば軽量でコンパクトに持ち運べるFXカーボンが良いかもしれない。多くの人にとって、間違いのない選択肢だ。
だが今回、僕がいちばん印象的だったのは、レガシーライトASのリーズナブルさだ。アンチショック機能が付き、それほど重いわけではないのに、購入予算に限りがあっても買い求めやすい価格なのである。
高度な機能性や使いやすさをどこまでも考えれば「ブラックシリーズFXカーボン」、機能や使い心地の面は多少割り切っても気軽に手を出せる「レガシーライトAS」。どちらを選んでも、あなたの心強い登山の相棒になることだろう。
文・写真=高橋庄太郎

