HOME > “現場主義”インプレッション > ソフトな履き心地で、疲れにくい!フィット感がすばらしい、ザンバラン『パスビオGT』
今回ピックアップする登山靴は、本場イタリア老舗登山靴メーカーのザンバラン「パスビオ GT」。
一般登山に向くトレッキング系(バックパッキング系)シューズのベーシックモデルをレビュー。
ソフトな履き心地で、疲れにくい!フィット感がすばらしい、ザンバラン『パスビオGT』

ザンバランはイタリアの老舗登山靴メーカーだ。
だが【パスビオGT】は、“日本オリジナル” モデル。
つまり、伝統あるヨーロッパのシューズ製作技術を用いつつ、日本人の足に合わせた設計なのである。ユニークな立ち位置であり、いまやザンバランの定番モデルとなっている。
じつはこの『パスビオGT』、僕は以前から愛用しており、そのフィット感の高さと歩きやすさには驚かされていた。足への負担が少なく、足さばきも軽やかなのである。
正直なところ、ルックスがクラシックで少々地味なこともあり、そこまでの履きやすさは期待しないで使い始めたのだが、一度足を入れてみたら手放せなくなっていたのが、パスビオGTなのだった。しかし長く履き続けているうちにソールは摩耗。
それなのに僕はソールの張替えを怠ったままで……。
非常にラフな画像だが、上は僕が数年前の山行時にパスビオGTを履いていたときのカットだ。
色はグレー(グラファイト色)だった。
定番モデルに、新色ブラウンが登場
そんなわけで、以前から履き味を知っているパスビオGTではあるが、今年は新色のブラウン(男性モデル、女性用はネイビー)にカラーチェンジ。今回のテストではソールもフレッシュなこのブラウンモデルを使い、改めてパスビオGTの実力を再確認していくこととした。
さて、パスビオGTは、いわゆるトレッキングシューズである。
前回のレポートでピックアップした同じくザンバランの新作『デュフールEVO GT』は、ハードな岩稜帯を得意とするライトアルパイン系タイプでアッパーもアウトソールも硬かったが、パスビオGTはより柔軟。一般的な登山で使いやすいモデルだ。
アッパーにはマイクロファイバーとハイドロブロック・スプリットレザーが併用され、重量は片足約600g(サイズEUR42)。このタイプのシューズとしては、重くもなく、軽くもなく、といった重量だろう。
最近は軽さや柔らかさを強調した登山靴が店頭でも目立つが、登山靴は必ずしも軽くて柔らかければ良いとは限らない。
履き始めはその方が快適に感じるかもしれないが、重い荷物を背負って登山道を長時間歩いていると、華奢(きゃしゃ)な登山靴では体と荷物の重さを支えきれなくなり、結果的にむしろ疲れやすくなることもある。
街履きや一般的なスポーツシューズ選びとは、根本的に発想を変えねばならないことを念頭に入れたい。
その点、このパスビオGTは、トレッキングシューズに求められる要素を十分に満たしてくれている登山靴である。
ハイカットを感じさせない、柔らかな履き心地
では、はじめに登山靴としての特徴を把握しよう。
パスビオGTはハイカットタイプだが、それほど丈が高いわけではない。
また、アキレス腱付近は少し窪んでいる。
そのために、ミッドカットのような性質を持ち、足首はとても動かしやすい。
足首周りには柔らかなメッシュ素材が使われており、その内部に収められたクッション性の高い素材とともに、心地よく足へフィットする。
また、履き口が比較的広いので、ストレスなく足を出し入れできるのもいい点だ。
シューレースを解くとわかるのが、アッパーの素材が高い位置までつながっていること。
実測では、僕が試したサイズEUR45の場合、アウトソールの底面から17㎝の位置になる。一般的なトレッキングシューズよりも少し高めではないだろうか。
だから、この高さまでなら、水たまりや沢の中を歩いても内部への水の浸水はない。
さらに内側に使われているゴアテックス・パフォーマンスコンフォートのライニングとのコンビネーションで、防水性は抜群だ。
フィット感を高めるために、数種のフックを使い分け
アッパーには4種のDリングやフックが取り付けられている。そこにシューレースをかけてフィット感を向上させるのは他のシューズと同様だが、フィット感の向上のためにわざわざ4種のパーツを使い分けているのは、さすがザンバランだ。
ちなみに、一見ではどれも同じ機能に見えるフックだが、タイプによって ≪シューレースをかけると、そこで固定される≫ ものと、≪シューレースをかけても固定されず、シューレースが滑る≫ ものと2種類に分かれる。
言い換えれば、前者はフックにシューレースをかけるとそれぞれのフックの位置で締め付け感が決定されていくが、後者はフックにかけたシューレースがその位置から移動するため、シューズ全体で締め付け感を調整することになる。その点で言えば、パスビオGTのフックはすべて後者だ。
つま先部分は緩やかにして、足首部分は強く締める(もしくはその反対)などという履き方はしにくいが、つま先から足首へと適切に締めこんでいくことで、シューズ全体で良好なフィット感を得られる。
ソフトな履き心地のパスビオGTには、このタイプのフックのほうがよいのだろう。
つま先部分は1.8~2.0mm厚のレザーが使われ、下部のみヴィブラム製アウトソールの延長として、ラバー素材となっている。
内部には芯材も入っており、つま先もしっかり保護。岩にぶつけても衝撃は十分に分散され、変形しない造りである。
かかとからサイドにかけての素材も同様だ。
ラバーほどの強度はないが、岩場で使う機会が少ないトレッキングタイプならば、これで充分。僕が以前使っていたパスビオGTも、この部分はとくに傷んではいなかった。
衝撃吸収性を高めるために、アウトソールの上にはグレーとレッドの二層EVAミッドソール。
このレッドはデザイン上のアクセントにもなっている。
つま先とかかとに機能を持たせたアウトソール
アウトソールはヴィブラムStarLiteだ。
このアウトソールはつま先とかかとの部分に、それぞれ機能性を持たせたブロックパターンを採用しているのが特徴である。
以下の写真はつま先をアップにしたもの。つま先は“登り”でのグリップ力を高める設計になっており、かかとは“下り”で滑りにくいように波型ブロックが逆形状になっている。
また、それぞれのブロックは非常に立体的で、柔らかな地面をしっかりとつかみやすい形状である。
このヴィブラムStarLiteのアウトソールは、指で押さえると容易に形状が変わるほど、かなり柔らかだ。クッション性も高く、ミッドソールの弾力性と合わせ、パスビオGTの衝撃吸収性を高めることに貢献している。屈曲性も高まり、パスビオGTが見た目以上に軽やかに歩けるのは、このアウトソールのおかげなのである。
ただし、僕の経験上、摩耗は少々早いようだ。とくに岩場で使うと顕著である。ライトアルパイン系の登山靴とは異なり、もともと岩場に合わせたソールパターンではなく、それよりも歩きやすさを重視しているのだから、これは仕方ない。だが、このアウトソールは張替えできるので、摩耗したらソール交換してリフレッシュさせてやるといい。
初めて履いてもフィットする、その柔軟性と足型のよさ
実際に歩いて見ると、パスビオGTの歩行性のよさが再認識できる。
このブラウンは今回初めて履いたものだというのに、すでに何度も履きならしたかのようなフィット感なのである。もちろん個人差はあるが、さすが日本人向けの足型のシューズだ。
アッパーの屈曲性も上々である。
厚みのわりに心地よく曲がり、内部の足にも違和感はない。
このアッパーはアウトソールとともによく曲がるので、アウトソールが地面をつかむ力を損なうことはない。アウトソールのグリップ力をキープするのに、アッパーも貢献しているという印象だ。
そして同時に感じるのは、“ かかとの収まり ”のよさである。
かかと部分はシューズのフィット感を高める際の基本となる箇所だが、パスビオGTはこの部分が驚くほど気持ちよくフィットするために、足とシューズが一体化しているかのような履き心地なのだ。そのおかげで歩行力は格段にアップ。この点に関しては感心するばかりで、僕が以前からパスビオGTを愛用している理由のひとつでもある。
湿った場所も、乾いた砂も苦にしないアウトソール
ところで、パスビオGTのアウトソールのブロックのミゾはかなり深い。
そのため、少々ぬかるんだ場所でも地面に食い込み、とても滑りにくい。
これならば雨の日でも安心して使えるはずだ。
ただ、撥水加工を施しているアッパーではあるが、濡れた場所を歩いていると少しずつアッパー素材に水が浸透していくことは避けられない。
素材の特徴なのか、乾燥までにはいくらか時間がかかるが、もちろん内部のゴアテックスによって防水性は保たれており、見た目だけの問題ではある。
一方、花崗岩が風化したような砂の上などでのグリップ力もまったく問題ない。
ブロックパターンが立体的であるために、地面をとらえる力が高いのは砂地の上でも同様なのである。
ライトアルパイン系のシューズのようにブロックパターンが平面的なシューズよりも、こういう場所ではやはりパスビオGTのようなシューズが力を発揮してくれる。
ただ、岩場向けに設計されたシューズではないとはいえ、パスビオGTが岩の上で滑りやすいわけではない。
多少のクライミング技術が必要となるハードな岩稜帯ではなく、一般的な登山道であれば、パスビオGTのアウトソールで大概の場所を歩けるはずだ。
柔らかなパッドで、足首への負担はなし
それにしてもうれしいのは、足首周りの柔らかさだ。とくにブラックの化学繊維部分は内部のパッドも含め、非常にソフトでやさしく包み込まれているようだ。
そのために、体重を前後にかけても足首への負担は少なく、足首の可動域はひろい。ハイカットモデルながら、ミッドカットのような履き心地ともいえそうだ。
なお、今回は中厚のソックスを合わせたが、これだけ足首周りが柔らかければ、もっと薄手のソックスを合わせたとしても違和感はないだろう。
また、シューズ内側のメッシュ素材の通気性や吸汗性もよい。
気温が高い時期に長時間歩いても、無用な暑さを感じないで済むのはありがたい。
さすが日本オリジナル。高いフィット感がもたらす“疲れにくさ”
ところで、長時間歩くほどに感心させられたのが、パスビオGTの “ 疲れにくさ ” である。
その理由は、先ほどから述べているようなパスビオGTの柔軟性や滑りにくさにあるのは間違いない。そして、それ以上に僕が考えるパスビオGTの疲れにくさの要因は、“ かかとの収まりのよさ ” に代表されるフィット感の高さだ。ただでさえ優れたモデルが多いザンバランだが、これはやはり “ 日本オリジナル ” 設計のパスビオGTゆえかもしれない。
今回はパスビオGTが優れたトレッキングシューズであることを再確認した。日本アルプスなどのハードな岩稜帯ではライトアルパインシューズ、それとは対照的に気軽なデイハイクなどではトレイルランニングシューズなど、シチュエーションによっては別の選択肢もあるが、パスビオGTは大半の登山道で活躍してくれるはずだ。とくに森林限界以下の樹林帯や砂礫が中心の登山道では使いやすいだろう。
まずは一度、足を入れてみてほしい。
文・写真=高橋庄太郎

