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微妙な差で選び分ける、LEKIの伸縮式トレッキングポール
トレッキングポールを日本に浸透させた王道の伸縮式機能を有した、2大トレッキングポール『シェルパ ライト』と『マカルーライトAS』をレビュー!
アンチショックシステムか、大型バスケット付きか?
微妙な差で選び分ける、LEKIの伸縮式トレッキングポール

LEKIといえば、トレッキングポールの代名詞的なポール専門メーカーだ。トレッキングポールは一言でいえば登山用の「杖」である。山岳信仰の修験者が持ち歩いた “ 金剛杖 ” のように、たんなる一本の木でも大いに歩行の助けになるものを、LEKIはより現代的に進化させてきた。しかも毎年新しいモデルを必ず発表している。シンプルな道具のように見えて、まだまだ進化の余地を残しているのがトレッキングポールなのである。
さて、今期もLEKIは新モデルを数種類発売した。そのなかで、ここで取り上げるのは “ シェルパ ライト ” と “ マカルーライト AS ” の2モデルだ。
ペアで重量500g台の最新型_伸縮式モデル
このシェルパ ライトとマカルーライト ASの外見は非常によく似ている。どちらもシャフトのカラーはブラック系で、そこにアクセントになる派手な色でモデル名などが記されている。ここではオレンジの文字のほうがシェルパ ライトで、ブルーの文字のほうがマカルーライト ASと覚えておいていただきたい。
現代のトレッキングポールは数本のシャフトを使って伸び縮みさせる “ 伸縮式 ” と、3段ほどに畳める “ 折り畳み式 ” のどちらかである。一般的に伸縮式のほうが丈夫で壊れにくく、折り畳み式のほうが携行性がよい。その分類でいえば、シェルパ ライトとマカルーライト ASは、どちらも伸縮式だ。
以下の写真は収納時にいちばん短くした状態である。両者はほとんど同じ長さだが、じつはシェルパ ライトは68㎝で、マカルーライト ASは67㎝と1㎝だけ短い。また、シェルパ ライトは重量が約510g(2本組)で、マカルーライト ASは516g(2本組)だ。
微妙な差だとは言え、その違いの主な理由は “ ある機能 ” がシェルパ ライトには搭載されておらず、マカルーライト ASには搭載されているからである。そのあたりの詳しい説明は後ほど行いたい。
折り畳み式トレッキングポールよりも伸縮式は収納サイズが長いとはいえ、さほど邪魔になる長さではない。試しに容量65Lの大型バックパックのサイドポケットに差し込むと、ほぼ同じ高さになった。
もちろん中型や小型のバックパックに取り付けるとグリップ分くらいははみ出してしまうが、歩いているときは手に持っているわけだから、あまり気にはならない。それでも気になるような方には、いずれこのウェブサイトでも新製品を紹介する予定の折り畳み式がいいだろう。
※山行現場以外での公共交通機関移動時や駅構内など人が多い場所では、バックパックのサイドポケット部ではなく身体の前で抱えるように手に持って移動すること。
(人にぶつけてトラブルになったりする事例が多数発生しているため)
丈夫なシャフトに握りやすいグリップと、たくさんの共通点
シェルパ ライトとマカルーライト ASは兄弟モデルといってよいほど、さまざまな点が似ている。そこで、まずは共通点をチェックしていきたい。
どちらもシャフトは3本で構成。太いものから径は16㎜、14㎜、12㎜で、素材はアルミだ。
シャフトには長さの目安が書かれており、どちらも最大135㎝で使える(適合身長は140~190±5㎝)。
それ以上長くすると強度が落ちてしまうポイントには、「STOPMAX」という表示もあって親切だ。
グリップは握りやすい形状で、ヘッドの部分は中空になっていて軽いエルゴン・エア。じつに特長的なグリップ形状でLEKIならではの革新的構造特長を有しているので、詳しくはLEKIテクノロジー紹介ページを参照してもらいたい。
そこに超薄手のスキンストラップが取り付けられている。
先端の金属カーバイト・チップとプロテクターも見逃せない点
石突きと呼ばれる先端部は非常に鋭い。以前は先端の金属チップをむき出しで使うことを提唱する専門家もいたが、近年は登山道や植物の保護のため、この部分にプロテクターをかぶせて使うことが当たり前になっている。だが、雪上や岩場ではプロテクターを外し、金属チップを露出して使ったほうがしっかりと地面をとらえられて安全であり、状況的に登山道や植物を傷める心配もない。状況に応じて使い分けるのが正解だ。
なお、この金属チップは摩耗すれば樹脂パーツごと交換可能だが、僕はこれまで一度も取り換えたことはない。簡単には摩耗しないほどの硬度と強靭さを持った素材なのである。
プロテクター(LEKIでの名称は “ スリップレスラバーロング ” 、一般的にはキャップともいわれる)の内側には金属のリングがある。
この部分にチップが差し込まれると固定力が増し、岩などに挟まったときでもプロテクターが外れにくくなる。ただし、しっかりと押し込んでおかないと効果が出ないので、ご注意を。
こちらがそのプロテクターだ。スリップレスラバーロングという名称だけあって、いかにも滑りにくそうな弾力ある素材である。また、滑らないように溝が刻まれている。
このパーツも失くしたり、摩耗したりすれば交換可能だ。
マカルーライト ASに搭載されたアンチショックシステム
と、ここまではシェルパ ライトとマカルーライト ASの共通点を見てきたが、ここからは相違点を確認していきたい。
まずは両者の収納時の長さの差の原因にもなっている、先端部に加えられた工夫だ。
左上がマカルーライト ASで右下がシェルパ ライトだが、マカルーライト ASのほうには途中にグレーのパーツが加えられているのがわかるだろうか。
これは「アンチショックシステム」だ。地面についたときの衝撃を和らげ、手首への負担を減らす工夫である。
この機能を持っているか、持っていないかが、もっとも大きい両者の違いだといって差し支えない。
グリップがより長く、大型バスケットも付いたシェルパ ライト
次にグリップの下側の部分だ。エルゴン・エアから延長するように長くなったグリップは “ エルゴンサーモロング ” という名称で、その名の通りに長い。それに、断冷力を持っている。
このエルゴンサーモロングは両者ともに採用されているのだが、じつはよく見るとシェルパ ライトのほうが少しだけ長い。実測ではヘッドからの長さが、シェルパ ライトは約31.5㎝、マカルーライト ASは約28.0㎝。その差は約3.5㎝であった。
アンチショックシステムは搭載していないシェルパ ライトだが、その代わりに付属しているのが “ マウンテン ビンディングバスケット ” だ。これは雪の中で使う大型バスケットで、柔らかい雪面にも過度に突き刺さらず、トレッキングポールの沈み込むのを防止する。使われているオレンジ色は、雪中での視認性も高い色だ。なお、LEKIには以前から同じように大型の “ ツアリングバスケット ” があるが、マウンテン ビンディングバスケットはさらに新しい機能が加えられたバスケットである。硬質補強された黒い樹脂部分でスノーシューやBCスキーのビンディングヒールの調整や、滑走面の雪を落とすためのスクレーパーとして使えるといい、冬になってから使ってみるのが楽しみだ。
同様の大型バスケットはマカルーライト ASにも取り付けられるが、シェルパ ライトと違って別売りのため、買い足す必要がある。
ここまでチェックした後、これら2種のトレッキングポールを持って、実際に歩いてみた。薄曇りの天気だったが、意外と乾燥している空気が気持ちいい。
なお、ここから使われる写真では、僕はつねに左手にシェルパ ライト、右手にマカルーライト ASを持ち、両者を同時にテストしている。
小石が混じった登山道を進み、ちょっとした岩場の上を何度も通過しながら、僕はシェルパ ライトとマカルーライト ASの違いを確かめていった。
さすがの衝撃吸収力をみせるアンチショックシステム
小一時間も歩いてから実感したのは、アンチショックシステムの有無の差の大きさだ。
マカルーライト ASのアンチショックシステム(グレーの部分)は、体重をかけるとつぶれるような形で沈み込み、地面からの衝撃を緩和する。沈み込む高さはたった5㎜ほどなのだが、これだけでかなりの効果があるから驚きだ。右手に感じる衝撃が緩み、心地よく歩いて行ける。
もっとも、二十数年以上もLEKIのトレッキングポールを使い続けているヘビーユーザーの僕には、同社のアンチショックシステムの優秀さはわかり切ったこと。現在のアンチショックシステムに改良されたのは8年前の2016年からで、それ以前から十分な衝撃緩和力を持っていたのが、さらに自然な使い心地にパワーアップされているのである。昔のアンチショックはバネの反発による跳ね返りがあったが、それが一切なくなっているのがいい。
シェルパ ライトもアンチショックシステムが搭載されていないわりには、腕に感じる衝撃はそれほどない。アンチショックシステムの代わりに、柔らかなスリップレスラバーロングが衝撃を吸収しているからであろう。とはいいながら、衝撃吸収力に関してはアンチショックシステムにスリップレスラバーロングの力も加わった、マカルーライト ASのほうがやはり良好だ。
不安定な岩場の上ではトレッキングポールを強く突かねばならないことも多い。そんなときには両者の差をとくに強く感じた。
簡単に短く持てるロングタイプのグリップ部分
登り道を進むときは、トレッキングポールが長いと持て余し、短時間だけでも短くして使いたくなることもあるだろう。そんな場合、エルゴンサーモロングはストラップを手首から外せば、延長されたグリップの下のほうを持つことができる。
グリップの長さに約3.5㎝の差があったシェルパ ライトとマカルーライト ASだが、実際に握ってみると、あまり違いは感じられない。もちろん長い分だけシェルパ ライトのほうが微調整しやすいのは確かだが、この差はどちらのモデルを選ぶのかの分岐点にまではなっていないと感じられる。多少の長さの差はあっても、“ エルゴンサーモロング ” グリップでさえあれば、短く持ったときの使用感が損なわれることはない。
ところで、グリップの上部に位置するエルゴン・エアのグリップは先端部分が少し飛び出ている。岩場の急な登りでは、この部分を岩に押し当てて体を支えたり、バランスをとったりすることもできる。
以前からLEKIのトレッキングポールにはよく使われていたディテールだが、意外と便利だ。
登り坂の次は、下り坂である。
今度はトレッキングポールを長めに持って歩きたいシチュエーションだ。
いくぶん平面的なヘッドは、圧力を程よく分散
こんなときはヘッドの部分を持って歩けばいい。
以前のLEKIトレッキングポールのヘッド部分はもっと丸みを帯びていたが、両者に使われているエルゴン・エアは比較的平面的なヘッドである。僕にはこの平面的なヘッドのほうが手になじんで使いやすかった。丸みを帯びすぎていると体重がかかった手の平が痛くなることがあったが、このように平面的なほうが、圧力が分散されるからだろう。
長さ調整はラクラク。スピードロックシステムとスキンストラップ
さて、ワンポイントならば、急な登りではグリップを短くして、急な下りではヘッドを持って使うこともできるトレッキングポールだが、山頂までの登り道ではあらかじめ短くして、下山口までの下り道では長くして使うのがセオリーだ。
その点、これらのトレッキングポールは長さ調節が簡単だ。
どちらも “ スピードロックシステム ” を搭載。レバーを引いてロックを解除し、あとはシャフトを伸縮させるだけだ。また、ダイヤルをまわせばロックレバーの緩みを取り、締め付け感の硬さも調整できる。
ちなみに、正確に言えばシェルパ ライトに使われているシステムは “ スピードロック2+ ” で、マカルーライト ASは “ スピードロックプラス ” 。“ 2+ ” のほうはロック部分の本体パーツがアルミ素材で構成されている。一方のマカルーライト ASのほうは、一体成型された硬質プラスチック素材の構造となっているのだ。ちなみに両者ともダイヤルを緩めすぎても、ダイヤルが本体から脱落しない工夫が込められている。
10年前の2014年からLEKIのトレッキングポールに採用されているスキンストラップと、その長さの調整方法についても触れておこう。
スキンストラップは吸汗速乾性が高い素材で作られ、汗ばむ季節でも肌触りが良好。僕がスキンストラップを初めて使ったときは、こんな薄い生地で大丈夫かと思ったが、これまでまったく支障なく使えている。ストラップを上にあげるとロックは解除され、そのままストラップをどちらかの方向に引けば、すばやく長さを調整できる。
登り、下り、さらには平地と、一回の山行で何度調整しても面倒ではない。じつに楽なシステムだと改めて感心した。
LEKIのトレッキングポールはいつも僕の期待を裏切らない。今回使ってみたシェルパ ライトは昨年からのモデルで、マカルーライト ASは今年の新製品だが、年々使いやすく、そして軽量になっているのはすばらしいことである。
環境に負荷を与えない、見落としがちな重要ポイント
最後に、今回のテストの際に出会った興味深い出来事をご報告しておく。
僕が山中を歩いていたときに、拾ったものが以下の写真だ。トレッキングポールのプロテクターである。丸一日で、計4つ。見ていただければわかるように、すべてLEKIのスリップレスラバーロングではない。
これは現在のLEKIのプロテクターが、いかに脱落しにくく設計されているかの証明だ。じつのところ、過去のLEKIのプロテクターは脱落することもあり、登山道中で拾うことも多かった。しかしスリップレスラバーロングになってからは、落ちているのを見かけることが本当に激減したのだ。脱落して土にまみれたり、岩の隙間に落ちたりしたプロテクターは自然環境にダメージを与えかねない。プロテクターひとつを見ただけでも、LEKIへの信頼感はますます高まる。
そんなわけで兄弟モデルともいえる、シェルパ ライトとマカルーライト AS。極端な差はないが、アンチショックシステム、エルゴンサーモロングの長さ、スピードロックシステムの微妙な違いなど、細かく検討するに値することがわかっていただけただろうか。その違いを確かめるには、実際にショップで手に取ってもらうのがいちばんかもしれない。
文・写真=高橋庄太郎

