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アグレッシブに魚を追い求め釣り上げる、ハイパフォーマンスモデル「KR_MSF WIDE」を徹底レビュー

プラスアルファの工夫で、いっそう使いやすく。進化した渓流シューズ「KR_MSF WIDE」

夏に向かうとともに渓流の水温が高くなり、沢登りにはよいシーズンになってきた。もっとも、渓流釣りの愛好者の方は水が温まることを待つはずもなく、渓流釣り解禁直後には氷のように冷たい沢に喜んで入っていたのだろうが。

沢登りは、日本で独自に発達してきたともいえる登山スタイルだ。それゆえに “ 沢靴 ” などとも呼ばれる “ 渓流シューズ ” の優れたモデルは、日本のメーカーの独壇場である。そのなかでもキャラバンが展開する渓流ブランドの「KR_3XF」と「KR_3XR」は、まさに渓流シューズの代表格だ。

この2つの渓流シューズの特徴は以前のレポートにまとめているが、その決定的な違いは、「KR_3XF」(写真左:レッド色)はフェルトのアウトソールを用いているのに対し、「KR_3XR」(写真右:ブルー色)はラバーのアウトソールを使っていること。それ以外は変わらず、両者はアウトソールの違いによる、いわば兄弟モデルだ。

2つの代表モデルとは異なる、独自個性の渓流シューズ

しかし、キャラバンにはほかにも優れた特徴をもつ渓流シューズを展開している。
それが今回ピックアップする「KR_MSF WIDE」だ。

詳しくはこれから解説していくが、先に述べたKR_3XFとKR_3XRで言えば、このKR_MSF WIDEはKR_3XF寄りのモデルだ。

つまり、アウトソールがフェルトなのである。

サイドから見ると最下部の黒い部分がアウトソールで、じつはこのアウトソールにはちょっとした工夫が加えられている。

上の写真を見ただけで、見当がつくだろうか?

その工夫とは、アウトソールに高低差がつけられていることだ。一般的な渓流シューズのアウトソールは完全に平たくてフラットな形状だが、KR_MSF WIDEは土踏まずの部分が少しくぼんでいる。つまり、いくぶん立体的で踵高な構造なのだ。

トレッキングシューズでは当たり前だが、渓流シューズとしては珍しく、ユニークな工夫だ。これは凹凸のある岩の上や下流域での丸みをおびた石でのグリップ力を考慮したものだという。

このアウトソールのフェルトは13㎜厚で、厚みも十分あってそれなりのクッション性を発揮する。

しかし、どうしてもフェルト製のアウトソールは摩耗しやすいが、このアウトソールは張り替え可能なのがありがたい。

要所を補強し、耐久性を高めたアッパー

KR_MSF WIDEのアッパーは数種の素材を使い分けている。主体となるのは水抜けがいいポリエステルメッシュで、その上の傷みやすい箇所には耐久性を高める樹脂プリントも加えられている。

また、特筆すべき点として、このKR_MSF WIDEはステッチによる縫製箇所が極端に少ないことがあげられる。実質的にはほとんどないといってよく、それによって目視で確認しにくい水中で岩などにアッパーが擦れても、ステッチ切れが起きる心配がまったくないのだ。
渓流シューズでたびたび発生しやすい課題を、見事にクリアしているのはさすがと言える。

さらに足首周りは樹脂製のTPU補強パーツで厚みを持たせ、歩行時の安定性とホールド性を高めている。
注意深く目を凝らすと、ステッチの縫製箇所もTPU補強パーツの溝に沿って縫われていることも確認でき、ステッチ(縫製糸)が直接岩などに擦れない工夫が施されていることがわかる。
なかなかのこだわりポイントだ。

アッパーの最上部にはフックが2段になって使われており、シューレースをすべてハトメを通すタイプの渓流シューズよりも脱ぎ履きがしやすい。

フックが引っ掛かりやすいからとフックが使われている渓流シューズを好まない人もいるが、一般的にはこの上に発泡ラバー素材のスパッツをつけてカバーするわけで、僕には大きな問題とは思えない。

タンの部分は完全に上までアッパーと一体化され、一切の隙間がない。

そのために小石や砂利がシューズ内部に入りにくいのが好印象だ。

異物を内部に入れないようにするための工夫は、履き口にもプラスされている。

足首周りはストレッチ性の発泡ラバー素材が使われ、上から見ると少しキュっと狭まっているような形状だ。これによってフィット感を高め、異物の侵入口となる隙間を減らしているわけなのである。

この部分には指をかけられるテープも設けられている。

同様にタンにもテープがつけられており、シューズを脱ぎ履きするときに力をかけやすいので便利だ。

怪我をしやすい沢の中で役立つバンパーの機能

つま先を中心にKR_MSF WIDEは硬いトゥバンパーで補強されている。

このバンパーに使われているラバー素材はつま先から両サイド、さらにはかかとまで配置され、足を守ると同時に歩行時の安定性を高めている。

サイドのラバーには小さな孔が3つ並んで付けられ、シューズ内部に入った水はここから排出される。

ラバーで覆われて水はけがしにくいシューズ下部で、水抜けを高める重要なディテールだ。

では、実際に足を入れてみよう。

うん、なるほど! 僕はこれまでにKR_3XFとKR_3XRの双方を愛用してきたが、それらに比べるとKR_MSF WIDEはまったくちがう。簡単に言えば、内部にかなり余裕があるのだ。それもそのはず、KR_MSF WIDEというモデル名には「WIDE」という言葉が入っており、足幅(ワイズ)は “ 3E ” というゆとりあるサイズ。

もともとキャラバンの渓流シューズは3㎜厚の渓流ソックスを履く前提での設計となっており、このときの僕も同様のソックスを履いていたが、締め付け感がまったくないのである。ちなみにKR_3XFとKR_3XRの足幅(ワイズ)は2Eで1段階しか違わない。しかし、足を入れた際の感覚の違いはもっと大きく感じた。

渓流シューズ最大のポイント “ 滑りにくさ ” は?

そんなわけで、ここからは沢の中での使用感をお伝えしていく。

なお、このレポートに使っている写真はすべて僕が撮影したもので、三脚を使って自撮りを行なっている。足場が悪く、水しぶきがかかる沢の中でひとり撮影するのには限界があるため、使用画像はあまり流れが激しくなく、撮影が比較的容易な場所のものに限られている。テスト風景というよりもイメージカット的になっているが、その点に関してはご了承いただきたい。また、テスト自体は、流域を変えつつ数度行なった。

また、今回はKR_MSF WIDEに組み合わせて、『渓流 ニースパッツ プロⅡ』を使用した。発泡ラバーを使用していて脛に加えて膝を守る力が高く、フィット感もすばらしい新製品だ。

裾にはフックがあり、渓流シューズのシューレースに固定できる。
立体的な筒形形状でソックスのように履く仕様だが、厚みのある膝パッド付きで膝を突いての動作にも役立ちそうだ。そういえば、今回のテストの際、何度か岩に脛をぶつけてしまったのだが、渓流 ニースパッツ プロⅡのおかげで怪我をしないで済んだ。これは渓流シューズの相棒として、重宝するだろう。

それでは、KR_MSF WIDEのフィールドインプレッションをはじめよう。
はじめにチェックするのは、渓流シューズでは最大のポイントとなる “ 滑りにくさ ” だが……。

KR_MSF WIDEのアウトソールに使用されているのは、僕が愛用しているKR_3XFと同じ日本製の高密度フェルト。以前のレポートを見ていただけばわかるように、これは非常に滑りにくい沢登りに特化したアウトソールの素材だ。

だから、KR_MSF WIDEを履くのは初めてでもまったく心配はなかった。KR_3XF同様に滑りにくく、このアウトソールには大きな安心感がある。

ただし、KR_MSF WIDEはワイドモデルだ。足幅が狭い人はシューズ内部で足がずれてしまう可能性があり、そういう方にはKR_3XFが適している。

じつのところ、僕自身もKR_MSF WIDEは少し緩いような感覚があったが、シューレースをしっかりと締めることでそれほど違和感なく履くことができた。

体が止まる! 立体的形状のアウトソール

“ 滑り防止 ” という点で感心したのは、KR_MSF WIDEのフェルトのアウトソールがくぼんでいることによる大きなメリットだ。

上の写真のように丸みを帯びた岩の上へ足を置いたとき、かかとに体重がしっかりと乗り、体が安定しやすいのである。使い続ければフェルトの摩耗によって、この感覚は少しずつ失われていくのかもしれないが、初期性能としてはすばらしい。

また、このときは防水カメラを使うことができず、水中の写真はないのだが、水深い場所にあるヌルついた岩の上でも滑りにくかったこともご報告しておきたい。

KR_MSF WIDEの水抜けは非常によく、メッシュ製のアッパーはもちろんのこと、サイドの孔からの水の流れ出しも良好。内部に水が溜まって、シューズが重くなることはない。これならば快適に歩くことができ、疲労も少ない。

ちなみに、このサイドの孔はワイヤーメッシュで閉じられており、水抜けはいいのに、砂利が入ってくることはないのが利点だ。

つま先やかかとなどに使われているラバー製のバンパーの機能も十分だ。

小さなスタンスへ無理に足をかけても足先に負担がなく、岩につま先が引っ掛かって転びそうになったときでも、つま先が痛くなることはない。

KR_MSF WIDEに使われているラバーは、KR_3XFやKR_3XRのものと同じ硬質な素材で、足先を守る力がすばらしく高い。しかもアッパーの樹脂プリントとの相乗効果で、一足のシューズとしての保護力が抜群に増している。

釣りにはやはりモノトーン? シックなカラーリング

ところで、KR_3XFとKR_3XRの展開カラーはレッドおよびブルーの派手な原色系だったが(後にブラックも追加登場)、それに対してKR_MSF WIDEはテストに使ったグレーに加え、もうひとつはブラック。沢の中では目立たない色だ。

上の写真でも僕が履いているシューズがどこにあるのかは、わかりにくい。それほど水流が強くない場所でも、足元のシューズは水中の岩の色と同化してしまう。

歩行中の安全のためには、視認性が高いレッドやブルーのほうがいいことは間違いない。しかし、釣り人には渓流魚から見えにくいグレーやブラック系を好む人も多いようだ。渓流魚がどれくらいのレベルで色彩を認識しているのかには所説あるようだが、毛鉤やルアーは色によって釣果が変わりうることも事実だ。

そう考えれば、目立って魚に感づかれそうな原色よりも、周囲に溶け込むモノトーンのほうが釣りに適していると考えるのは自然なことかもしれない。それを踏まえるとカラーリングも渓流シューズ選びのひとつの判断基準になりそうだ。

シューレースについても一言触れておきたい。

KR_MSF WIDEには解けにくい平紐タイプが使われているが、このときは丸一日、最後まで解けるどころか緩むこともなかった。これは想像以上に大事なポイントだ。また、かなり細いシューレースだが、耐久性も十分なようであった。

同じフェルトを使った渓流シューズとの違い

最後に、同じフェルトのアウトソールをもつ大定番KR_3XFとの簡単な履き比べを行なってみた。フェルトの摩耗が進みつつある僕の私物のKR_3XFと、新品に近いKR_MSF WIDEの比較ということもあり、あくまでも参考程度に見ていただきたい。

足を入れたときの感覚は、やはり大きく違う。先に述べたように足幅はKR_3XFの “ 2E ” に対し、KR_MSF WIDEは “ 3E ” 。僕の足はそれほど幅が広くはないため、KR_3XFはぴったりとタイトな感じがあり、KR_MSF WIDEは少し緩め。それによって岩の上での安定感も少し異なる。

正直なところ、僕にはKR_3XFのほうが合っているようだ。しかし、日本に多いという “ 甲高幅広 ” の足の方にはKR_3XFは履き心地が窮屈だと感じる人もいるだろう。そういう方はやはり余裕あるKR_MSF WIDEのほうが適しているに違いない。そもそも足幅による履き心地の違いは個人差でしかなく、直接的にシューズの良し悪しを左右するものではないのである。

一方で、僕がKR_3XFよりもKR_MSF WIDEのほうが好みだったのは、アウトソールの形状だ。KR_3XFのフラットなアウトソールは、大きな岩の上にベタっと足を置くときには最大のグリップ力を発揮してくれるが、KR_MSF WIDEのアウトソールには高低差があるためにベタっと足を置いたつもりでも均一には力がかからない。その代わり、凹凸が多い岩の上ではKR_MSF WIDEのほうが、体をしっかりと止められる。

上の写真のような小さめの岩の上では、摩耗しつつあるKR_3XFのアウトソールは少し不安定。しかしKR_MSF WIDEは、こういう岩の上が得意なのだ。

水中での視認性は以下の写真を見れば、一目瞭然である。

渓流釣りよりも渓流歩き、つまりシンプルな沢登りに行く機会が多い僕には、視認性が高いKR_3XFのほうが安全に歩けるだろう。しかし、本格的に渓流釣りに取り込むのなら、目立ちにくいKR_MSF WIDEがベターだと思われる。

“ 足に合うかどうか ” で選ぶ渓流シューズ

さまざまな登山靴の中で、渓流シューズというものは少し特殊なタイプだ。海外メーカーからはキャニオニング向けのウォーターシューズなども販売されているが、やはり日本の渓流シューズとは進化の方向性が少々異なることがおもしろい。

そんななか、KR_MSF WIDEが第一に向いているのは、やはり足幅が広い人だろう。そして、たんなる沢登りではなく、釣りも楽しみたい人に適している。反対に足幅が狭い人は相当に分厚い渓流ソックスを合わせなければいけない。

足幅がそれほど広くはない僕は “ 3E ” ではなく “ 2E ” モデルもあるとうれしいと感じる。ときどき渓流釣りをすることも考えると、KR_MSF WIDEのグレーやブラックも魅力的だ。

いずれにせよ登山靴というものは、使う人の足に合うかどうかが最重要ポイント。渓流シューズの選択肢を増やしてくれるKR_MSF WIDEは、多くの沢登りや渓流釣り愛好者にとって、これからますます重要な存在になりそうだ。

文・写真=高橋庄太郎

今回レビューした商品

KR_MSF WIDE  ¥24,200 (税込)

【カラー/サイズ】
100グレー /25.0~29.0cm(1cm刻み)
190ブラック/25.0~29.0cm(1cm刻み)
全2色
重量/約480g(26.0cm片足標準)

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爽快な沢登りを楽しむために、
機能性を追求した「渓流」シリーズ。

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