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INTERVIEW -村井隆一×野村真一郎-

岩場で多くの成果を出し、国内外問わずボルダリングで活躍するふたりに、アンパラレルシューズの魅力を聞いた。

 Interview 01「クライミングとの出会い」

── 今日はお二人に根掘り葉掘り聞いていきたいと思います。よろしいでしょうか?

村井隆一(以下、村井) 野村真一郎(以下、野村) はい

── 自己紹介かねて名前、身長、体重、リーチ、年齢を教えてください。

村井 村井隆一です。身長は167 cmで、体重は58kgぐらいです。リーチは173cmですね。年齢は25歳です。

野村 野村真一郎です。身長が159cmで、体重53kg、リーチが164cmぐらいかな。23歳です。

── 二人とも身長プラス5、6㎝くらいですね。身長とかリーチとか、気になることはありますか?

村井 まあ、苦労はしますね。やっぱりコンペだと。国外のワールドカップとかだとどうしても……。

── 活躍している選手は、やっぱり170cm以上みたいなイメージはありますよね。

村井 そうですね。日本代表のなかでは、たぶん僕が一番小さい。楢﨑智亜君が169cmとか……「ギリ170cmない」って言ってたかな。でもリーチ長いんですよね。180cmくらいあるって言ってましたね。

野村 僕がたぶん一番、低身長。クライミング界で一番低いレベルなので、逆に何の課題をやっても、もはや気にならない感じでした。でも最近ちょっとそういうリーチ課題に出くわすことが増えてきて、今、また繊細な部分から考え直してます。トレーニングの仕方とか。

── 体重の管理はしてますか?

村井 あんまり食生活とかはこだわってないですけど、やっぱりコンペ前とかツアー前とかだけ軽く絞ってます。普段の体重よりもちょっと増えてたら、制限はしますけど、ルーティン的に意識してっていうのはないですね。

野村 僕もそんなに……。むしろ、身長の割合からすると重い方なので、あんまり関係ないのかなって思いますけど。調子のいいときは絞れているような気はします。あんまり(食事制限)やるとモチベーションが下がるから、普通に食べたいですね。

子どもの頃に出会ったクライミング

── クライミングを始めた「きっかけ」から話してもらえますか?

村井 クライミングを始めたのは小4だから10歳ですね。今、15~16年目とかです。きっかけは、もともと山登りから始まって、親と一緒に登山してたんですけど、山登りの一環で、父親がクライミングをはじめて。で、クライミングジムがちょうど近くにあって、それが船橋ロッキーなんです。そこの環境が良かったっていうのもあって。最初は山から入ったんですけど、山のために始めたクライミングにのめり込んで、そっちがメインになっていった感じですね。

野村 僕は、たまたま神奈川から茨城に引っ越したときに、その引越し先にちょうどスポーレ(クライミングジム)があって、親がアウトドアスポーツみたいなのが好きで。それで、父親に連れていかれて始めたんですけど、そのときは水泳もやっていて、水泳が嫌いすぎて……逆にクライミングが楽しくて。

村井 わかるかも。僕も水泳やってたから。

野村 水泳が嫌いで、クライミングやったらおもしろかったんです。まあ、始めたときはジムでキャッチボールとかやっていてよく怒られていたんですけど、JOCに出たくらいのときから真剣にやるようになって。自分のシューズを持った頃からちゃんとやるようになりました。

── 引っ越ししてから始めたっていうのは何歳くらい?

野村 それが小2ですね。僕も15年くらいです。多分、(村井君と)おんなじくらい。

村井 小2から?すごいね。

野村 いや、でも、小6ぐらいまではやってないようなもん(笑)。週1で楽しんでる感じでした。

── 二人ともユースの大会からクライミングにハマっていった感じですか?

村井 そうですね。僕の場合は、ロッキーには同い年の子が多かったんで、練習をみんなで一緒にやっていて。飯田さんっていう方がコーチで、まとめて指導してトレーニングとか考えてくれて、それでコンペを目指してやっていった感じですかね。

── ユース世代の子って大会を目指すのがスタンダード?

村井 最初はやっぱりそうじゃないですかね。ただ意味もなく練習していても、やっぱり何か目標がないと。モチベーションをぶつける対象が欲しいっていうか、そういうのがあったほうがより強くなりやすいですね。

大人になり魅了された岩登り

── 岩を登り始めたのはどれくらいからですか?

野村 岩は3年くらい前。それまでは全然、岩も行かずに、インドアやってたんですけど、たまたま豊田に行ったとき、「アガルタ(V14)」と「バビロン(V15?)」が登れて、それからですね、岩に行き始めたのは。それまでは二子山とかにちょっと行ったことあるくらいで、でも全然登れなくて、「弱えな」とか思ってました。

村井 自分も同じ感じ。中学校、高校もちょいちょい行ってはいたんですけど、本当にたま~に何ヶ月かに一回行くぐらいで、全然、ガッツリって感じではなかったです。2015年かな。大学2年か3年生ぐらいのとき、超久々、2年ぶりぐらいに神戸(ボルダー)に行って、確か2回目だったんですけど、久々に「オロチ(V15)」ちょっとやってみるかって言われてやったら登れて、それからのめり込んで、みたいな。

野村 おんなじだ。

村井 もともとは岩とか、全然、登り方とかわかんないし、足(フットホールド)がとにかく悪いし見つからないしって感じで、すごく苦手意識あったんですけど…。

野村 ああ、たしかに。あったな、俺も。

村井 時間が空いてまた来てみたら、やっぱりこう…印象が変わって。

── それはおもしろいですね。これを読む人達にとって二人に対する印象はまるで違うのではないでしょうか。少なくとも岩のボルダリングに関してはスペシャリストみたいに思われているでしょうから。

野村 今はそうかな。昔はマジで、岩に行ってみただけの人だったから(笑)。でも、もともとのスタイルは合ってた気がする。保持系は好きで。

世界一の指と世界一のヒールフック

── お互いの印象はどんな感じですか?

村井 とにかく、ノムシンは指が強いっていうイメージは誰もが持ってると思うんですけど、単純に指先でいったらカチ、特に下引きかなあ。下引きのクリンプは本当に、マジで世界一強いんじゃないかな(笑)。

あとは小柄だけど、どうしても足残さないといけないみたいな、もう足離れると落ちちゃうような課題とか、足を残すのがうまい。身体張力がかなり優れてますね。見た目の大きさ以上に大きく見える登りは、かっこいいと思います。

あと、トウフックが物凄く上手いっていうのはありますね。小山田(大)さんのジム(プロジェクト)で登ってるっていうのはあるのかもしれないけど、とにかくすごいなって思いますね。

野村 それは、手が長くて足が短いからっていうのがなくもない気がする(苦笑)

村井 トウ掛けたときとか見ていて、参考にしたいけど、あんまり参考にならない。どうやって掛けているのか、よくわかんないです。

野村 りゅうさんは、一番強いんじゃないですか、今。特にメンタルが凄い気がする。強いのは知ってたんだけど、「つなげ」がとにかく上手いというか。決めきれるし。それこそスイスでも、(ムーブを解析して)できるって思ったらつなげが早くて、パッと登れるから、「え?」みたいな。「ホントに?」みたいな。

最近、鳳来に行くようになって「モナ・リザ(V14?)」と「白道(V15)」をやってみて、つなげるのって結構難しいと感じました、あれは。この2つはつなげが大変そうだなっていうか。他の人がなかなか決めきれないのを、そういうのも早く決めちゃう感じ。ムーブができれば、つなげが早い。

あとはもう圧倒的にヒールフックがヤバい。ヒールはもうよくわかんないです。ヒールフックは世界一ですね。

村井 自分の苦手なところが、逆にノムシンは得意なイメージです。トウフックだったり、足残しだったり。

野村 逆のタイプなイメージは、僕も結構あります。なんか、りゅうさんの動画しかないんですよね、もう、岩でやりたいやつが…。で、ちょっと観てみるんですけど、絶対マネできないから、結局、あんまり意味なくて。

あと、保持の仕方もちょっと違うんですよ、僕は小指巻き込んでクリンプで持つのが好きなんですけど、りゅうさんは(指を)伸ばしてオープンハンドで登っていくじゃないですか。手堅い登り方してるなって感じ。そこはすごく勉強になる。

オープン派、クリンプ派

── 小山田大さんの3mmエッジでのトレーニングって話題になりましたが、あれも野村君はできます?

野村 3mmは、もうイケるようになりました。気合で。

村井 3mmって、もはや保持なんですかね。

野村 いや、気合だと思う。なんかもう、あんまりね、正直、意味ない。(小山田)大ちゃんは、それ以上になんか違う能力があるから。でも、りゅうさんと大ちゃんの保持は似てますね。3本指で伸ばして取る感じ。

── 村井君はオープンハンド?

野村 オープンですね。

村井 逆にクリンプできないですね。

野村 大ちゃんとおんなじこと言うんですよね。

村井 たぶん、もうクセだと思う。本当に、小学生からの。ずっとオープンで持ってたから。小指の力の入れ方を理解しないまま時が進んでいって。

野村 ホントに俺と逆だ。こうやって(ホールドに手を伸ばす仕草)入ってるけど、「え?」みたいな。「こうじゃないの?」みたいな。

── クリンプ派とオープン派の違いですね。

村井 そこはトレーニング環境とか、いろいろ違いがあるかもしれないですね。

野村 最近3本指のオープンハンドを練習してて、ある程度良くなってきたけど、やっぱ怖い。力が入らないからケガしそうで。

村井 リーチ的にはやっぱり3本の方が。

野村 3本の方が絶対いいし。それは最近気づいた。

Interview 02「自らの長短を探る」

── お互いの印象はおもしろいですね。今、自己分析の話しも出てきましたけど、自分のクライミングの得意な部分と、逆に苦手な部分ってありますか?

村井 傾斜でいえば、強傾斜の方が得意ですね。スラブとか垂壁は、結構、苦手なほうに入りますね。
長所、ん~、ま、でも、ヒールはやっぱ自分でも武器だと思ってますし、困ったらヒールかけちゃうんで、逆にちょっと(ヒールフックに頼りすぎて)フィジカルが心配になるなってときは一時ありましたけど。ヒールに自信があるっていうのと、あとコンプレッション系は好きかもしれないですね。

── 挟み込み?

村井 挟み込むような。でも苦手なものの方が多いですね、個人的には。単純に足を使う系のムーブがすごく苦手で、足っていうか脚力。ランジとかコーディネーション系は見ての通りです。あとは、ちょっとカラダが硬いんで、足上げが人よりも全然上がらないんで、そこで……。

── カラダ硬いんだ!

村井 硬いですね。

── 意外です。ヒールフックを多用するから柔らかいのかと思ってました。

村井 ヒールのときだけは、たぶん腕で引いてるからかな。上がるんですけど、単純にこうポジション変えずに足だけ上げるっていうムーブが、めちゃめちゃ苦手なんで、スラブでそういう感じが出ると本当にできないですね。そうですね……短所はとにかく足。脚力と体の硬さ。

── この話はコンペのルートセッターには聞かせたくないですね(笑)。

村井 そうですね!

「つなげ」の早さ

── 多くの人が村井君に対して、高難度課題を短時間で(レッドポイントに)成功している印象をもってると思います。

村井 たしかに一回バラせた課題は、比較的早く「つなげ」に成功している感じはしますね。

── 持久力があるとか、そういうことですか?

村井 いや、持久力ではないと思うんですけど、なんだろう……。自分でもよくわかんないですね…。いかにバラしたムーブを楽にできるかっていうのを発見して、一番楽な登り方ができればそれでつながるんで。でも、あんまり意識はしていないといえばしてないですね。なんかバラせたら「それはできる」ってことだから、つなげちゃうだけだなっていう。「バラしたけど、これからつなげるのか」っていうよりも、「バレたから、じゃあ、あとはつながるわ」っていう、結構、ポジティブな気持ちになるっていうのも関係してるかもしれないですね。

── 野村君の場合はどうでしょうか?

野村 やっぱ、リーチは悩みではあるとは思います。まず、人とムーブが違うんで、課題の中で自己分析しないと絶対できないっていうのはあるんで。リーチの分を補える長所としても、やっぱりフックとか足残しとか、指の力とか……片手でぶら下がれないとどうしようもないっていうか、そういう考え方を最初にしたんで。結構、リーチっていうのを大前提の短所として、それを補う長所を作っていってるイメージ。だから今、3本指も短所として自分の中で挙げていて、それを長所に変えたいなと思ってます。
鳳来とかってあんまり握り込めないホールドが多いんで、ポケットだったり。最初は塩原とか豊田とかみたいに、クリンプ主体の高難度課題があるところに行ってたんですけど、この一年はちょっと短所を克服したいなっていう意味で。最近はちょっとそこが上がってきているのか、前より対応できるようになってきて、そこはいいかなって。自己分析しながら登ってますね、常に。

── そもそも他人とムーブが違うと。

野村 スイスツアーも成果はなかったけど、すごくいい経験になってます。「Off The Wagon(V14)」とかも、まあ、やっぱり3本指でバッて取らなきゃいけないっていうのは苦手だってわかってたけど、それに対して準備できなかった部分もあったんで。届いてはいるんで、できるはずなんですよ。それはなんとかするしかないから。そういう考え方だから、あんまりその長所と短所がどうだからって、あんま考えたことはないかな。

「モード」に入る

── 全国的に野村君の名前がすごく有名になったのは、塩原の五段クラスを1日で3本登った記録です。あれって手数も多いじゃないですか。1本登るっていうだけでもダメージがあると思うんですけど、それを1日で登り切るのってかなりスタミナが必要なのでは?それが普通にできる理由って、なんだと思いますか?

野村 調子いい日と悪い日の差も結構あって、それがなんか本当に最初のアップの時点でわかるというか。で、あの日は本当に調子よくて。「ハイドランジア(V15)」って、結構、人生目標だったんですよ、自分的に。それに向けてすごく準備してきたっていうのもあったのか、むちゃくちゃ調子よくて。
そういう日ってリードが調子よくて、あんまりこう……腕が張らなかったんですよ、その日。だから「ハイドランジア」よりは「バベル」と「UMA」ってムーブは悪くないから、なんか今日はイケるなっていう「モード」に入っていたというか。

── すごいですよね、普通に考えて。「できる人いないでしょ」みたいな。

野村 あの日以降、何日かはあるけど、ばっちり岩にハマる日っていうのはなかなかなくて、そのアプローチの仕方もちょっと分析しなくちゃいけないんだろうけど、なかなか難しいですよね。りゅうさんは逆に、あんまり波がないイメージ。

村井 なんか僕はあんまり気候とかに左右されないかもしれないですね。いつも同じようなパフォーマンスは出せるようにしている感じ。なんていうのかな……たしかに調子がいいときと悪いときって、あまり差はありませんね。難しいな……なんで登れるのかわかんない(笑)。人に説明が……。自分でもあんまよくわかってないから。どう説明すればいいんだろう。

野村 見ててもわかんない。

村井 登れるときと登れないときって何が違うんだろうみたいな。

野村 いや、あんま変わってなくない?なんか、りゅうさんって「あ、今日登れるわ」みたいなこと毎日言うんですよ。「え?今日めちゃくちゃ岩濡れてんじゃん」みたいな(笑)

村井 もう慣れました、雨。(スイスツアーでは)ひたすら雨でしたからね。

── コロラドに「The Game(V15)」を登りに行ってたときも、初日、雨とか雪でしたよね。

村井 そうですね。濡れているとつなげは無理ですけど、そのなかでもできるパート、全部が全部濡れるわけじゃないんで、そういったところをその日のうちにしっかり固めておいて、別の日にまたイケそうなところをって感じで組み立てておけば、あとは「つなげるだけ」って感じになるんで。

── 必殺技、「つなげるだけ」。

野村 やべー、マジで。

村井 コンディション悪いときにバラしやっといたほうが、コンディションが回復したときに、メチャメチャやりやすくなる。こんなん持てるじゃんみたいな。「Off The Wagon」とか、晴れた時にもう一回やった(笑)。

野村 めちゃくちゃ普通に登ってた(笑)。

── 2回登ってるんですか?

村井 トップアウトしてないですけど、キャンパのところまでは行きましたね。キャンパしてマッチのところまではいったんですけど、全然感じが違いましたね。

── 登ったときって、あのスリットのところも濡れてたんですか?

村井 登ったときはビショビショでヤバかったですね。トップアウトまで7分くらい、ずっとレストしてて。本当はそういうときはやらないほうがいいのかもしれないですけど、ツアーにくるとモチベーションが上がっちゃうんですよね。日数も限られてるのもあるんですけど。限られたなかでしっかり組み立てをしないと……雨の日でも。

Interview 03「愛用のシューズとその理由」

── 先ほどヒールが得意ですとか、トウフックが得意ですって話も出ていました。次はシューズについて聞かせてもらえればと思います。まず、お互いの愛用しているシューズと気に入ってるポイントを教えてください。

村井 僕が愛用しているのは、『レグルス』と『アップライズVCS』。この2足をメインに使っていますね。一番の武器であるヒールフックを最大限に使えるシューズなので。レグルスがオールラウンドに使えるので、岩場はこれメインですけど、さらに高度なヒールフックが求められるときは、やっぱり形状的にフラットタイプでよりヒールフック性能が高い『アップライズVCS』を使うようにしていますね。このモデルは基本的にヒール課題のときしか使わないです。

── 使い分けをしているということですね。

村井 ヒールフックの強度によって使い分けていて、オールラウンドに使っているのは『レグルス』です。基本的にこれを履いとけば何でもできるので、不便なところとかはないですね。フィット感もすごくあって、以前まで使用していた他ブランドのシューズより力が伝わりやすい構造になっているのは、すごく助かっています。かき込みもできるし。

── どちらかといえば硬めが好きですか?

村井 硬めのほうが自分は好きですね。やっぱり岩だとエッジングが多いので、どうしても柔らかいと負けちゃうのが、ちょっと……。自分は、そんなにつま先とか強くないんで、硬いシューズに助けられてという感じですね。

── 村井君がよく使っているヒールフックの掛け方、独特のヒールフックをしていると思うのですが。

村井 『レグルス』はヒールカップ形状が独特ですよね。最近は『レグルス』履いている人も見掛けるんですけど、やっぱりこのヒール形状に慣れてないというか、このシューズでのヒールの掛け方がわからない人もいるみたいですけど、自分としては馴染みのある形です。

── ソールラバーのヒールの巻き上げた端っこのところを引っ掛ける感じ?

村井 そうですね、これが一番!このラバーエンドが途中で終わっているのが、すごいミソっていうか。ソールラバーとランドラバーの間をピンポイントで潰すことで、とても強力に引っ掛かりますね。特に、面よりもエッジのヒールフックに強い感じです。

── 村井君は手指に隠れているようなホールドに、指を1本2本ずらしてヒールを掛けている姿が印象に残っています。岩でもコンペでも「絶対そこでヒールは掛けられないでしょ」ってところに掛けていることがあって、それはやっぱり、その形状のヒールじゃないとうまくできませんか?

村井 ん~、おそらく。自分はこのヒール形状が一番安定するんじゃないかなって思っています。他のシューズと比べても。

── そういう話を以前から村井君に聞いていたので、『レグルス』と『アップライズ』シリーズは同じ形状のヒール構造にしているというのはあります。たぶん以前まで使用していた他ブランドのフラットタイプシューズを履いていた時期に身につけたテクニックだと思うのですが、昔からですか?そのヒールの掛け方っていうのは?

村井 最初からその他ブランドシューズを履いていたわけではないですけど、それを履きはじめて、今のヒールの掛け方に気がついたみたいです。それで、このヒールフックの安定感が気に入って、ひたすらそのシューズ履いてきたって感じですね。

── 当時、あの人はなんでダウントウシューズを履いてないんだろうと……。

村井 コンペで(フラットタイプ)使っている人は、ほとんどいなかったですもんね(笑)。

── 村井君のヒールフックにみんなが気づきはじめて、次第に真似する人が増えましたね。

村井 そうですね。このヒール形状の良さに気づいてくれる人が増えるといいですね。ヒールを掛ける向きとか力を入れる方向にコツがあるんだと思います。慣れるとすごく武器になりますね。

── 次は野村君、いろいろと聞かせてください。

野村 インドアはだいたい『ヴィム』を使っています。めちゃくちゃトウフックが掛けやすくて、スリッパなのに脱げる感じがしないのがいいです。岩も河原とか行ったら『ヴィム』が多いですね。なんかこう……面系踏むときもあるんで、そういうときはこのモデルに履き替えてます。でも、岩はだいたいエッジングがいい『レグルスLV』。『レグルス』だとちょっと硬すぎてしまうので、LVを履いています。僕もこのヒール形状が好きで、エッジにヒールするときは内ももの上側に力を入れて決める感じ。

── 『ヴィム』は高難度が登れるスリップオンっていうイメージで企画開発したので、野村君が履いてくれて、すごくうれしいです。

野村 軽いし、ピンチフックとかめっちゃ掛かります。プロジェクト(クライミングジム)はピンチフックの課題が結構多くて、だいたい悪いホールドを持って手に足(手で保持しているホールドに足を掛けるムーブ)でホールドにピンチフックみたいな。そんなときは
『ヴィム』。他に『ベガ』とか『レオパード』とかも履いているんですけど、メインはこの2つ。

── 男子は使い分けをする人が多いですね。

村井 他だと『シリウス』の足残しは本当に感動した。どんだけ足残んの!って……。しかも履き心地がめちゃくちゃいい。

野村 たしかに。

フィット感の良さ、ヒールカップとつま先の関係

── 『シリウス』シリーズはレースアップなので特にフィット感がいいのと、『ヴィム』のヒール形状と同じで踵の上までソールの巻き上げをしているので、踵から前方向に足を押し出してくれる。それもあってつま先を残しやすい。ヒール形状とつま先って、実は密接に関係しているんです。

村井 足もすごく残せるし、フィット感がよくて、履いていてすごい気持ちいい。

── アンパラレルシューズ全モデル共通ですが、スリングショットに工夫があります。企業秘密なので詳しくは言えないけど、ファクトリーで打ち合わせして、土踏まずのフィット感が出るように作っています。ヒールカップも剛性を出して踵全体がしっかり収まるような構造にしています。アンパラレルはどのモデルを履いてもヒールカップの収まりがいいと思うのですが、『シリウス』なんかは特にそれが顕著です。結果的につま先に力が集まるので、足が残せる。それをもっと簡易版にしたのが『ヴィム』みたいな感じです。

野村 たしかに『シリウス』は、最初に履いたときビックリした。本当につま先しか使わない課題だったらむちゃくちゃいい。強傾斜でずっと足を残してないといけないみたいな課題とかだったら、すごく相性がいいかもしれない。足切れたらおしまいみたいな。
「モナ・リザ」とかいいのかな。ちょっとやってみようかな、『シリウス』で。

村井 確実に足を残さないと。

野村 あれ、(足を)切ったら終わるもんな。

村井 切ったら終わりだもんね。

野村 あれヤバい。

既存課題のグレーディング考証

── 「モナ・リザ」のホールド、むちゃくちゃ悪いですか?

野村 いや、悪いです。

村井 悪いですね。

野村 過去イチ悪い。ピンチがヤバい。

村井 うん、ヤバいよね、あれ。あれねえ、そう1日に限られてる、トライできる回数が。

野村 俺もそう。

村井 フリクション系だから、ずっと持ってると感覚が失われてくる。指皮削れて、持ち感がもうホントに……。

野村 最初は止まるんだけど、後半やるとめっちゃ遠く感じる。たぶんV15あると思う。

村井 あれV15あると思うよね。

野村 たぶん登れたらV15って言う、俺はとりあえず。

村井 俺もV15ってコメントするわ、じゃあ。V15だね~つって。

── スイスツアー中に塩原のグレード比較検討みたいなことをやっていましたよね?あれ、ちょっとおもしろいなと思っていました。

村井 やっぱり、そういうのは大事かなと思って。初登時と比べ微妙にホールドの変化があれば、初登時と現状でグレードが乖離しちゃうっていうのは当たり前だし。放っておくと初登のグレードが継承されていくだけなので、そこはちょっと初登者、再登者の話し合いとかで現状に則した適正グレードに変わっていったらいいのかなと。

── 高難度課題だと、それを検証できる人が少ないですし、そういった意味では「僕はこう思います」みたいな発言は出てきていいですよね。その中で擦り合わせしてコンセンサスを得るみたいな。

野村 塩原ルーフ課題のグレード談義のあれは、すごくしっくりきたよね。僕たち二人のなかでは完璧に一致でした。

── 塩原のルーフ課題は、二人とも全部登っていますか?

村井 全部、登っていますね。

野村 僕はりゅうさんの「Birth of The Cool(V14)」(村井初登)が残ってる。あれ以外は完登しています。

クライミングシューズは信頼できる相棒

── 2人にとって、アンパラレルのクライミングシューズってどういった存在ですか?

村井 ほとんど相棒みたいな感じですね。背中を預けるじゃないですけど、足は全部預けています。やっぱり、自分にとっては武器を最大限に活かしてくれるものなので、この靴を履いて登れない課題があってもシューズのせいにすることは絶対にないと思いますね。それぐらい信頼を置けるシューズですね。

野村 とにかく課題の印象が変わるというか、(シューズを)変えるとどんなもんかみたいな。すごく大事なんだなって気づきました。チョークとシューズは本当に大事ですよね。最近まで、あまりシューズは気にしてなかったんですけど、アンパラレル履いてから、すごく考えるようになって。相棒っていう表現は、たしかにしっくりきます。

── シューズに求める性能で、一番重要視しているものは何ですか?

村井 自分の登りをさせてくれるシューズですかね。自分のスタイルを一番表現させてくれるシューズ。もう、アンパラレルのシューズを履けて幸せです。一番、やりたいことやらせてくれるシューズだから満足です。

野村 結局、つま先を一番使うので、つま先がしっくりくるシューズから選んだりとか……。選べる環境がまず、すごくありがたいですけど、シューズによって性能が顕著に変わるってことは、研究されてるなって感じがしてすごいと思っています。いつも。

── ありがとうございます。そんなふうに言っていただけると、とてもうれしいですね。「どれを履いても一緒です」って言われたら嫌だなと思って、企画開発しているので。フリクションはどうですか?不満はないですか?

野村 全然ないですね、もうこの2つ(『ヴィム』と『レグルスLV』)で、僕は大満足です。

村井 そうですね。元々、つま先を残すのが得意じゃなかったんですけど、それでもやっぱり足を残せる様になってきたっていうのは、少しムーブの幅が広がってきたかな、という感じはあります。

野村 なんか、アンパラレル履くようになってからフットワークが洗練された気がします。前まで、結構上半身で登るっていう感じだったけど、最近、すごい足から気にするようになったかなって。手堅くなったかもしれない。

村井 僕も前まではとにかく持てるか持てないかを意識してたけど、最近はこう、足の先も信頼して、そっちになるべく重心を置いてっていう登りはできるようになってきたかもしれないですね。

Interview 04「モチベーションの根源」

── 二人が目標を設定するときの基準とか、方法などがあれば教えてください。

村井 DVDとかYouTubeとか、トップクライマーのSNSを見て、それは強烈な印象を受けるんで、やっぱり「この課題やりたい」というモチベーションになります。それで自分が、リーチとか物理的にできそうな課題であれば、それをとりあえず当面の目標にしようってなります。憧れから目標にもっていった方がモチベーションにも繋がるし、いいと思います。

── 野村君はどうですか?

野村 僕も同じですね。SNSで見て「うわ、カッコいいな」って思って、ただ僕の場合は、それに向けてやっぱり特殊能力を身につけていかないと、たぶん対応できないんで。憧れの課題から、じゃあ実際に登るためには「まずどうしたらいいか」っていうのを考えて、その必要な要素をまず身につけた後に、その課題と向き合えるといいですね。
でも、スイスツアーは直近で決まっちゃって、その準備ができなかった部分があるんですけど、まあ、それが初めてのツアーだったんで、今後はそういう風にやっていこうかなって感じですね。最近はmellow(クライミングメディア)とかもできて、結構あれはありがたい。よく観てるな。

村井 世界中のヤバい課題がピックアップされてるもんね。

野村 「Sleepwalker(V16/Redrocks)」とか、ホント観賞用ですね。カッコいいなとは思うけど、まあ俺は(リーチ的に)来世だな、みたいな。

村井 吟味ができますね。欧米人が普通に登ってる課題も「まっ、できるでしょ」と思って、実際にやってみると、全然、届かなかったっていうのも結構あります。あんまり参考にならないときもあるんですけど、できてもできなくてもカッコいいラインだったら一度は触っておきたいなって思いはあるので。

── mellowの中心メンバーで一番小柄なのってダニエル・ウッズ?

野村 ショーン・ラブトゥのほうが、ちっちゃいかな。

── ダニエルがちょうど170㎝かな、身長が。

野村 ダニエルはリーチが長い。

── リーチが180cmって昔、某イベントのトークショウで話してました。

村井 180㎝なんですね。もっと長いのかと思ってました。

── 国内の場合、特に村井君は、だんだん近場で登るものがなくなるっていう現象が発生しませんか?

村井 既存の課題だと、やっぱりそうなってくるんで、新しくラインを探すか、西に引っ越しするしかないですね。最近、ちょっと意識が変わってきてて、やっぱり再登するよりも新しい岩を見つけるところから始めて、で、ラインを引ければいいなって。この間、ちょっと瑞牆を歩いてみたんですけど、色々ありましたね。

強くなるためのトレーニング

── 新しい岩を見つけてラインを引く、っていいですね。では、続いてトレーニングについての話を聞きたいと思います。普段どういった内容のトレーニングをしていますか?

村井 普段のトレーニングは基本的には登りこみと、ビーストメーカーをやるくらいです。強傾斜での登りこみが多いですね。

── 1回のトレーニングで、どれくらいの時間登りますか?

村井 4時間ぐらいです。週に3日、4日ですかね。ツアーの2週間ってあんま長くないので、その短い期間でしっかり成果出すために、一日で登れる量を少し増やしておいて、あんまりトレーニング中にレストを入れないように意識してます。
あとは、ツアー中に登りたい課題に対して、それに模した課題を作ってツアー前に練習します。「Off The Wagon」をAPEX(村井が勤務するクライミングジム)に作ってやってたんですけど、もう悪すぎて全然できなかった(笑)。

── 作ったシミュレーション課題のほうが難しかった?

村井 そうですね。かなり(一手が)遠いんだろうなと思って。でも実際本物をトライしたらそれよりも全然距離が近くて。それで、日本に帰ってきてもう1回シミュレーション課題やってみたんですけど、やっぱ全然できなかった(笑)。ただ、動きはすごく似てたんで、次回「Off The Wagon Sit(V16)」に行くときは、それをもう1回やっとこうかなと思ってます。

── 野村君のトレーニングはどうですか?

野村 僕は、結構、苦手が多い。苦手っていうか、やらなきゃ!って思う項目が多いです。今だったら3本指(オープンハンド)のトレーニングとか。
シミュレーション課題は僕も作るんですけど、痛いホールドを付けてますよ。岩って痛いときが多いんで、パッと離さないように、痛いのに耐えられるようにしたいなって。

── あえて、人工壁でも痛いホールドを?

野村 人工壁って、どうしても気持ちいいホールドを選んじゃうと思うんです。
今は鳳来の「白道」をやってるんで、今度は1本指の練習をしようかなみたいな。そういう感じで日々やってます。それが克服できたときは、一番うれしくて。なんだろう……クライミング能力を底上げできるんで。今後、何かにぶち当たったときに応用できるし。そんな感じでやってます。
ただ、ツアーに向けたシミュレーションというか、(りゅうさんの)トレーニング中にレストを入れないっていうのは今までしてなかったんで、参考にしたいかなって。

── フィジカルトレーニングはしますか? 筋トレ的な。

村井 筋トレはあんまりしないですね。腹筋ローラーをちょっとやるくらいです。あと、基本は懸垂、ぶら下がり。

野村 僕は十字懸垂をやってます。リーチが短いんで、ピンピン状態から動けるか動けないかってとても大事なんで。あとはフィンガーボードぐらいですね、トレーニングは。

── 故障やケガはありませんか?

村井 ほぼ、ないですね。パキった(手指の腱靭を傷める)こともないです。

── 故障しないように気をつけていることはありますか?

村井 全く気をつけてないです(笑)。無理のないムーブで登るようにはしてますけど、意識はしてないですね。やっぱり。

野村 一本指くらいかな。一本指はヤバいって思うから。

村井 たしかに。「白道」のときは飛ぶ前に、これイケるか?この持ち方でイケるか?ってなって、ヤバいときは降りました。

野村 ヤバいときは、ヤバい!って信号がくる。これ無理でしょって。

村井 これは本能的にわかります。この向きで、この掛かりで飛んだらパキるって。

── まったく気をつけてないっていうのは良い話でしたね(笑)

村井 でも、年齢とかも関係あるのかもしれないです。そろそろ気をつけないと。着地もだんだん怖くなってきた、最近。

高難度課題を登るために

── 続いて、二人が高難度課題にトライするにあたって意識していることってありますか?

村井 高難度課題を登るとき、1トライして落ちたときに「なんで、そこで落ちたのか」っていうのをしっかり考えるのが大事だなと、自分のなかで思ってます。1回落ちたら、どうすればそこを突破できるのかを10個くらい考えるんで、1回のトライでたくさんの情報を得て、とにかく片っ端からそれを試すっていうのは意識してやってますね。

── 頭を使うってことですね。

村井 そうですね。それが「つなげ」の早さに関係してるのかもしれないです。パートパートでバラすときもつなげることを前提に、つなげに適したバラし方があるんで。それを見つけておくとつなげやすくなります。それは塩原に通ってたときから意識してますね。

── 野村君はどうですか?

野村 僕はたまにパフォーマンスも意識しちゃってて……。例えば、「ハイドランジア」とか1回キャンパシングでやったんですけど、やっぱカッコいいって思うムーブだったらそれでやりたいって思っちゃうときもあって……やっぱ登りきることが一番だと思ってるんですけど。

村井 わかる、それ!その課題といったら、こういうムーブが印象的みたいな。「Off The Wagon」だったらキャンパ!みたいな。

野村 もちろん登ることが大前提で、登ることが一番大事。

村井 内容の追求はその次になっちゃうから、とりあえず、登りたいっていうのはありますよね。

Interview 05「岩と競技、その違いと関連性」

── 二人にとって岩と競技はどのような違いがありますか?

村井 岩のラインっていうのは自然にできたもので、人を登らせるために作られたものじゃないんで、そもそも、そのラインが人間に登れるかどうかもわからないんですけど、その登れるかわからないものに挑戦していくおもしろさがあります。
コンペは人が登るように作ってるんで、作った人の意図を読むっていう心理戦的な要素を楽しめるのが醍醐味なのかなって思ってて、そこが大きな違いかなって。

野村 (楢崎)智亜君がルートセッターのクセを研究してて、もうなんか、そこまで行ってるんだなって思ってました。コンペティターってセッターとムーブを研究してっていうところまで行ってるんですけど、予想じゃないですか。セッターが新しいことをしようと思って、全然、違うのを出してくる可能性もあるし。その意味では、コンペのほうがアプローチの方法は難しいのかなっていう気はしてます。しかも1回勝負じゃないですか、それこそ。
岩は登れるってわかってからが、メンタル勝負だと思うんです。登れるってわかってから落ちてもいいし、先延ばしにしてもまたできるから、ある種の余裕を消さなきゃいけないっていうか。全体的な実力があれば、どっちも戦えるとは思うんですけど、全然、違うとは思います。

── 昨年のボルダリング・ジャパンカップ(以下BJC)後に、決勝に残った選手が全員インタビューをされていたとき、村井君だけが異質なコメントで、あれが印象的でした。まわりは「コンペのためにがんばってきました」的なコメントしているのに、村井君は「岩のトレーニングだけしてて」みたいな。

村井 「岩でコンペティターに対抗できるように」みたいなことを言ったような気がします。でも、コンペは難しいです、ホント。コンペ前にコーディネーション課題の練習とかはしますけど、直前にやってもできないんで、はい(笑)。
荻パン(B-PUMP荻窪店)で練習するんですけど、そっちのほうがBJCの予選とか準決勝よりも難しいんで、それをやってボコボコにされとけば、案外、心持ちがいい。実際、コンペのコーディネーション課題は、そんなに難しくはないですね。時間内に緊迫した空間のなかで自分の能力をどれだけ発揮できるかってことなので、普通にやればできることなんですよ……たぶん。
だから、練習だとものすごく強いけど、コンペだったら負けないなって人はいますね。直前とかで荻パン行くと、みんなめちゃくちゃ強いし、絶対、勝てないでしょ!て思ってても、本番になると「あれ? あの人、この課題できないんだ」みたいになるんで。それがコンペの効果っていうか、おもしろいとこでもあるかな。

野村 たしかに、荻パンなんか、マジで知らない人ですら登れている課題ができない(笑)。

村井 ホントにできない(笑)。

野村 去年、BJC準決勝に残ったときは相当ビックリした。もう、絶対行けないって思ってたから、「マジで?」みたいな。

── 今、BJCの準決勝に残るってかなり大変なことですよね。

村井 コンペ効果ってあると思うんですよ、ホント。メンタルの強さとかね、すごく試されてると思うし。岩でのクライミングも、多かれ少なかれ役立ってるかもしれないですね。

野村 それこそメンタル、結構、鍛えられる気がする。つなげトライっていうか。

村井 そうだね、たしかに、つなげのときってめちゃめちゃ集中する。

野村 コンペのゴール取りと似てる。岩始めてから、それで負けなくなった気はします。前はゴール落ちが多くて、それはあんまりなくなりましたね。次のホールドに対してビビらなくなったかな。

村井 決めきる力っていうのは、岩のほうがつくかもしれないですね。ハイボルダーとかやってると余計そうなる。ゴールで落ちらんねえって。

心にのこるクライミング

── 続いて、二人の印象にのこっているクライミングを教えてください。

村井 去年の「United(Decided SD/V16/瑞牆)」なのかな…。たしか、竹内(俊明)さんと初めて「Decided(V14)」を触ったときはムーブもできなかったんですけど、そのときから下部パートからつなげるラインも中嶋徹さん(Decidedの初登者)のブログで読んだり、竹内さんと話したりしてて。そのときはホントにありえなくて。
これがつながるのか?現代クライマーで可能なのか?って、すごく疑ってた状態から、まさか自分がつなげられるとは思わなかったんで、それはホントにクライミング人生のなかで一番の驚きと成長を感じられた瞬間ではありましたね。

── 国内では貴重なV16/六段ですね。

村井 そうですね。今のところV16にしちゃってますけど、いや、なんか、感慨深いですね。「初めてのV16 が初登」って、ちょっとどうなのかなって思ったんですけど、まあ、けっこう頑張ったし、やっぱり他の(V15クラスの)課題と比べても悪いかなと思って。
ていうかやっぱり今、日本の課題ってV15が天井みたいになっちゃってて、グレードの幅が広すぎて詰まってる状態だと感じるので、少し天井を上げていこうかと。まあ、それでグレードが違ったとしても、再登者と話し合ってグレードを確立していったほうが、日本のクライマーの強さの底上げにも繋がるじゃないかなって。そういう思いもあり、とりあえず、V16つけました。

── 長年のオープンプロジェクトでありながら、村井君以外成功していないのも事実です。

村井 しかも、めちゃめちゃかっこいいです、ラインが。スゴいです、あの岩……浮いてるもん。なんか斜面から生えてるみたいな感じなんですよ。見た目も、内容も、難しさも、今の人間がギリギリできるぐらいっていう、本当に奇跡のラインっていうか、本当に岩ってすごいなって思いますね。

── さて、野村君はどうですか?

野村 やっぱり、塩原で「ハイドランジア」と「バベル」と「UMA」ができた日がなんかもう、結構、あの日は……。

村井 神がかってた?

野村 ホントに調子が良すぎて。塩原は中学の頃に1回行ったことあって、「いや、こんなん登ってる人いるんだ」みたいな(笑)。
ダニエル・ウッズが塩原で登っているYouTubeの動画がすごく好きで、「こんな人と同じ課題を登る日が来るんだな」みたいな妄想してたら、いきなりできた感じだったので、単純にビックリした。スポーレで指を鍛えて、プロジェクトでいろんなクライミングをするようになって、それが結果に出たのがうれしかったです。
前のシーズンはリードのワールドカップも出てたんですけど、あんまり結果に出なくて「難しいな」って思ってたときだったんで、ちょうどそういう成果が出たのが、すごくうれかったです。

── すごいですよね。一日に五段クラスを3本登るって、野村君以外で他にいますか?

村井 いないんじゃないですか。たぶん、世界にもいないですね。

── 合計V44?(笑)。

野村 公式だとV15、V15/14です。ちょっと「バベル」と「UMA」はあれかなとは思うけど。

村井 やっぱそのスタミナすごいですね。三本合計するととんでもない手数になってる。

野村 合計80手ぐらい(笑)。でも、それからあの日の自分を研究するようになりましたね。それまでメンタルには自信がなかったけど、あれでかなり自信つきました。それこそつなげの自信がついたというか。重要なときに出しきれるっていう自信になったので、印象にのこってますかね。

── 恵那の「浮世(V14/15)」は?

野村 マジで、あれは一瞬過ぎて。「現世(V14)」ができた後だったんですよ。
なんか……右手取ったらめちゃくちゃ遠くて……足めっちゃ深いし……。うわマジか!って思って、すっごい握って右上の棚の下についている極小ホールドを踏んでみたら「あ、なんかいける」と思って手を出したら、止まって…。下がすごく調子よかったんで、「下からちょっとつなげて、どんなもんかやってみるか」っていうトライだったんです。そしたら上部で落ちるときの場所にマット敷いてなくて。だから上部の「テツコ」パートはめっちゃ怖かった。絶対落ちたくない(笑)。
あのときもメンタルに自信があったから出来たのかもしれないですね。以前だったら、上で落ちてたんじゃないかぐらいに、ちょっとテンパってました。上がスローパーで、前に一回落ちてたんですよ。

── できるものなんですね。そういうグレードのオリジナルパートを一撃みたいな。

村井 「浮世」は悪いですね。やっぱり下が悪いです。途中まで「現世」といっしょで、左に分岐するか右に分岐するかなんですけど、下のカチがとにかく痛いし薄いしで、本当にあれは握り倒す課題ですね。それで、上のランジパートで落ちると「また、下からやるのか」みたいな。メンタル的にやられるものがあるんで、それを一発で決め切ったのは、やっぱりスゴいですね。

ふたりのこれから

── さあ、いよいよラストの質問です。今後の目標を聞かせてください。まずは短期的目標から。

村井 やっぱり「Off The Wagon Sit」。すごく悔しかったんで、今年も行くと思います。僕たちが行ったあとにヴァディム・ティモノフが来て、あんな二撃で「Off The Wagon」落とされて。でも、やっぱヴァディムもシットスタートは8日くらいトライして結局できなかったんで、やっぱなんだかんだ悪いんだなと思って。自分も惜しかったんですけど、惜しいからこそ決め切れなかったのが悔しくて、もう絶対これは現役中に登りますね。

野村 僕の場合、自分のフィジカルな要素で言うと、もっと3本指というかオープンハンドを強くするっていうのが目標なのと、鳳来の成果は残したいですね。「白道」、「モナ・リザ」あたりは登りたいなっていうのはあります、今は。

村井 今月中に終わるっしょ?

野村 いやいやいや(笑)。

── では、中長期的目標。例えば、5年とか10年とかのスパンで考えてみて……、例えば、どういうクライマーになっていたいとか、こういうクライミングをしていたいな、というものがあれば教えてください。

村井 今はボルダリングがメインなんですけど、これからはちょっとリードも。やっぱ分野を広げて行きたいなと思ってて、スペインとか、スコーミッシュの「Dream Catcher(5.14d)」とか、DVDの『Dosage』とかYouTubeとかで観た、強い印象を受けた課題っていうのはルートにもたくさんあるんで、やっぱそっちにも挑戦してみたいです。
グレードでいうと、やっぱり5.15ってどういうグレードなのか気になりますし、それはもう大きな目標ですね。
ボルダーは、今はまだ再登メインですけど、最近、初登のおもしろさも感じてきているので、そっちの方にも移っていきたいなっていうのはありますね。

── 何年前でしたっけ?「明日初めて、リードで小川山行くんです」みたいなこと言って、普通に「スペシャリスト(5.13d)」一撃して、「メランジ(5.14c/d)」も一日で登ってましたね。

村井 リードまだ1日しかやってないのに(笑)。

── 野村君はどうですか?

野村 もともと僕はリードのほうが得意だったんで、やっぱり二子山とか行って、もうちょっと上手いクライミングができるようになりたいと思ってます。もっと上手いクライマーになるためにどうしたらいいかっていうのを考えていて、それを実現させていけば5年後くらいには、自然に5.15にも対応できるようになるんじゃないかなって思ってます。
リードはそれこそ9a+(5.15a)以上をやりたいですね。もともとリードの動画のほうが見るのが好きで、まあ、“ミジカシイ”ルートなら「Demencia Senil(5.15a/Margalef, Spain)」とかみたいなのも好きだし、「Silence(5.15d/Flatanger, Norway)」とかも異次元だけど、触ってはみたいですね。やっぱアダム・オンドラ(Silence初登者)ってスゴいから、そういういろいろなクライミングもできるようになってたらいいなっていう感じです。フィジカルだけではなく、いわゆる上手いクライミングができるようになりたいです。

── そういった意味では、二人ともリードクライミングにも対応できると思うので、すごく楽しみです。その二人を支えられるシューズをこれからも開発できるようにがんばりますので、引き続きよろしくお願いします。では最後に、これは言っておきたいとかありますか?

村井 10年後も20年後も名前が知られているようなクライマーにはなっときたいですね。

野村 たしかに。

── 二人の長い活躍を、アンパラレルでサポートさせて頂きます。本日はありがとうございました。

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PROFILE

Guest:村井隆一(Ryuichi MURAI)

25歳。「United(六段/V16)」の初登を始め、国内外で多くのハードプロブレムを登る。近年は、海外ツアーも精力的に行い、昨年のスイスツアーでは「Off The Wagon(V14)」、「The Story of Two Worlds(V15)」、「Dreamtime(V15)」を完登し圧倒的なボルダリング力を発揮した。ヒールフックを得意とし、「世界一ヒールフックが上手い」との定評がある。通称:りゅうさん。

Guest:野村真一郎(Shinichirou NOMURA)

23 歳。塩原ルーフの「UMA(五段/V14)」、「ハイドランジア(五段+/V15)」、「バベル(五段+/V15)」の3 課題を一日で完登し、恵那では「浮世(V14/15)」のオリジナルパートを一撃するなど、センセーショナルな成果で話題となる。小柄な体格をカバーするに余りある圧倒的な指の保持力で知られ、特に細かいエッジ系ホールドには無類の強さを発揮する。通称:ノムシン。

Interviewer:橘薗伸(Shin TACHIBANAZONO)

2000年からクライミングを開始。2002年に世界一有名なボルダー課題「Midnight Lightning(Yosemite)」に成功。以来、国内外で豊富なボルダリング経験をもつ。クライミングジムインストラクターを経て、現在は㈱キャラバンのクライミング部門担当。また、UNPARALLEL Climbing Shoes R&D Teamの一員として企画開発を担当。

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