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今回ピックアップする軽アイゼンはイタリア老舗登攀メーカーC.A.M.P.から、雪上行動に有効なチェーンスパイク『アイスマスター・シリーズ』と6本爪クランポン『フロスト』をレビュー。
低山ハイクか?森の中の散策か?雪上に適したチェーンスパイクと6本爪クランポン(前編)
無雪期とは必要になる装備が大きく異なるのが、積雪期の山歩きだ。一例はクランポン(アイゼン)やアイスアックス(ピッケル)だが、シチュエーションによってはそれほど本格的な装備は使わずに済む。実際、最近では12本爪、10本爪などの鋭い爪をもつクランポンの代わりに、簡易的な構造のチェーンクランポン、チェーンアイゼン、チェーンスパイクなどと呼ばれるものを使う人が増えている。簡単に言えば雪上や氷上での滑り止めであり、鋲をもつチェーンが登山靴のアウトソールを覆い、それを伸縮性が高いシリコンラバーで固定して使う雪上用の装備だ。
なお、現在のアウトドア界ではチェーンクランポン、チェーンアイゼン、チェーンスパイクなどとアイテム名が混在して使われている。しかし、ここでは「チェーンスパイク」という表記を採用する。鋭い爪をもつ本格的な登山用クランポンほどの機動力はないので “ チェーンクランポン ” “ チェーンアイゼン ” の表記には個人的に違和感があり、しかも “ チェーンアイゼン ” は「英語+ドイツ語」という不思議な表記だ。その点、“ チェーンスパイク ” は、この装備の実態をよく表している。
岩と氷の世界の代表格。「カンプ」のチェーンスパイク
チェーンスパイクの分野でもっとも人気が高いメーカーのひとつが、イタリアの老舗登攀メーカーの「カンプ」だ。もともと岩と氷の世界を得意とするギアメーカーだけあり、チェーンスパイクにも機能的なモデルが4タイプも発表されている。
そのなかでも代表的なモデルが、「アイスマスターエボ」である。
これは2つに分けられたステンレススチールのプレートの上に計13個のステンレス製スパイクが設けられたタイプで、カンプのチェーンスパイクのなかではもっとも強度が高く、かつ雪上で滑りにくいものだ。スパイク自体の爪長も15mmあり、足の甲に位置する部分にはバンドまでつけられていて、フィット感も上々である。
もうひとつが、「アイスマスターライト」だ。
こちらにも13個のスパイクが使われているが、ステンレスのプレートはなく、6つの小さなパーツに細かく分割されている。アイスマスターエボに比べればスパイクの爪長も13mmと少し短くて強度は低くなるものの、その代わりにチェーンがしなやかに動いて小さくまとまり、華奢な登山靴にも合わせやすい。そしてなにより軽量なのだ。
収納時はどちらもコンパクト。しかし、より小さくして持ち運べるのはアイスマスターライトである。
軽量、コンパクトで、小さな付属ケースへ収納可能
重量は、アイスマスターエボが433gで、アイスマスターライトが278g(どちらもサイズMのペアの場合)。その差は165gで、見た目以上に違いがある。ちなみにカンプのチェーンスパイクはS~LLまで4サイズ展開がなされており、普段のシューズのサイズが28.0~29.0cmの僕は、LLサイズを使用した。
ケースも付属している。左がアイスマスターエボで、右がアイスマスターライト。両者の収納時の大きさがイメージできるはずだ。
ケースに孔が開いているのは、雪がこびりついたチェーンスパイクをそのまま収納しても湿気が逃げやすいようにとの配慮からだという。しかもサイズによって左下に配置されたハトメパーツで色分けされているので、サイズも瞬時に見分けられる工夫がされている。
(ちなみにLLサイズはグレー色のハトメパーツとなっている)
ところで、僕はカンプのチェーンスパイクを以前から使用してきた。右の赤いモデルは10年以上前の「アイスマスター」。現行の製品の「アイスマスターR」の前身モデルだが、重量はペアで550g(Lサイズ)である。
同程度の機能性をもつ現在のアイスマスターエボは、LLサイズでも450gだ。一見地味なチェーンスパイクも軽量化が進み、進化が続いているのがよくわかる。
両者の違いは? アイスマスターの「エボ」と「ライト」
話をアイスマスターエボとアイスマスターライトに戻し、両者を比較していきたい。
上の写真は登山靴(グランドキングGK88を使用)の左足にアイスマスターエボ、右足にアイスマスターライトを組み合わせた様子だ。一般的なクランポンとは異なり、登山靴にクランポン装着用のコバが付いている必要はなく、どんな登山靴にも取り付けられる。ただし、シリコンラバーによる締め付け感が強いので、アッパーにはある程度の厚みと硬さをもつ登山靴が適している。とくにフィット力が高くて、登山靴を締め付けるアイスマスターエボは、剛性の強い硬めの登山靴を合わせたい。
両者のシリコンラバーを比較しても、アイスマスターエボのほうがいかにも強靭だ。さらにバンドまでついているので、歩行中のズレも抑えられる。
一方、アイスマスターライトに使われているシリコンラバーは細く、バンドも付属しないため、フィット感は控えめだ。だが、それだけに華奢なシューズに合わせても装着時に違和感が少ないのである。
次はかかと部分のフィット感を見てみよう。
アイスマスターエボに比べ、アイスマスターライトのシリコンラバーが上がっているが、これ自体はフィット感の良しあしとはあまり関係がない。大事なのは、アウトソールに接しているチェーンとスパイクが ” ピンっ ” と張られている状態になるように、シリコンラバーを引き上げて使うことだ。このラバーには吸い付くような質感があり、登山靴からズレにくくなっている。
そして肝心のスパイク部分。シューズをひっくり返しているので、ここでは左側がアイスマスターライトで、右側がアイスマスターエボとなっている。
写真 左側:アイスマスター ライト 右側:アイスマスター エボ
見るからに雪の上で滑りにくそうなのは、やはりアイスマスターエボだ。それに比べれば、アイスマスターライトはより簡易的な構造だが、その分だけ軽量なわけである。
横からスパイク部分を見ると、このようになる。
スパイクの高さはアイスマスター エボが15mm、アイスマスター ライトが13mmとなっている。一般的なクランポンの爪に比べれば、高さは半分ほどしかなく、雪に食い込む力は限定的である。そのために高山や深雪などの厳しい条件に適しているとはいいがたいが、雪が少ない低山や起伏が少ない残雪上などでは十分に機能し、それでいて軽量で携行性が高いのはありがたい。
スパイクの固定力が強い「アイスマスターエボ」
ここからはそれぞれの特徴を改めてチェックしていく。まずはアイスマスターエボである。
アイスマスターエボの前足部分のステンレススチール素材で作られた金属パネルは前後に分かれ、蝶番状につながっている。このために比較的大きめのパネルでも登山靴のアウトソールの湾曲に沿いやすく、登山靴へのフィット感を高めている。
表側のシリコンラバーとバンドの力もあり、チェーン部分の緩みも少ない。
この緩みのなさは雪上での安定性に大いに貢献している。とくに斜面では効果が高いのだ。
もちろんシリコンラバーのほうの緩みも少ない。
太めのシリコンラバーが使われていることもあるが、面ファスナーテープで固定する黒いストラップ状のバンドが効いているのだ。
華奢だが軽量、アイスマスターライト
それに対し、アイスマスターライトのチェーンは比較的緩い。
指で引くと大きな隙間ができてしまうが、柔軟性があるともいえる。
チェーンでつながれたスパイク部分も少し力を入れて握ると、形状が変わる。
スパイクが雪上に食い込んでも、登山靴側がある程度ズレてしまうのは否めない。
表側のシリコンラバーも同様に緩い。
しかし、だからこそ、華奢な登山靴にも合わせやすく、軽量で持ち運びが苦にならないという特徴を打ち出せるのだ。つまり、アイスマスターライトはアイスマスターエボよりも機能が落ちるモデルなのではなく、性質が異なる実力をもつチェーンスパイクなのだと考えるべきである。
雪の森の中を進み、2種の持ち味を体感する
こんな2種のチェーンスパイクを登山靴に取り付け、僕は雪の森の中を歩いてみた。
ここでも、左足にアイスマスターエボ、右足にアイスマスターライトである。
起伏が少なく、平地に近い雪上では、どちらも非常に歩きやすい。登山靴だけで歩いたときとは段違いにグリップ力が高いのだ。
また、雪がうっすらとしか積もっていない林道のような場所では、大げさなクランポン以上に小回りが利き、疲れにくいのがいい。こういう場所でのチェーンスパイクはとても便利な存在だ。
すばやく行動するために雪面を強く蹴って歩くような場合は、金属プレートにスパイクが付いているアイスマスターエボのほうが好調である。
アイスマスターライトは足裏のスパイクがズレやすいため、強く蹴りだすのは不得意だからだろう。だが、アイスマスターライトはアイスマスターエボよりも爪先に近い場所にもスパイクがあり、歩き方のコツさえつかめば歩行力を高められる。実際、僕自身も歩き続けるにつれ、アイスマスターライトの弱点をあまり意識しなくなった。
それに、アイスマスターエボの金属プレートも長く歩き続ければ少しはズレ、ときどき様子を見る必要はある。通常のクランポンのように金属パーツやストラップでガッチリと固定しているのではなく、伸縮性がある柔らかなシリコンラバーを使っているのだから、仕方ない。
(後編に続く)
文・写真=高橋庄太郎
今回レビューした商品
アイスマスターエボ ¥8,250 (税込)
サイズ:S/36~38(EUR) M/39~41(EUR) L/42~44(EUR) LL/45~47(EUR)
シューズ対応:オールラウンド
重量:S/約425g(パープル) M/約433g(オレンジ) L/約442g(ライトブルー) LL/約450g(グレー)
※サイズごとにカラーが異なります。
アイスマスターライト ¥8,580 (税込)
サイズ:S/36~38(EUR) M/39~41(EUR) L/42~44(EUR) LL/45~47(EUR)
シューズ対応:オールラウンド
重量:S/約270g(パープル) M/約278g(オレンジ) L/約292g(ライトブルー) LL/約302g(グレー)
※サイズごとにカラーが異なります。