HOME > “現場主義”インプレッション > “ アンチショックシステム ” の有無で分かれる兄弟モデル
三段折りたたみ式トレッキングポール『マカルーFXカーボンAS』&『マカルーFXカーボン』
ポール専門メーカーLEKIだからこその、細部までのこだわりが詰まった『マカルーFXカーボンAS』&『マカルーFXカーボン』をレビュー!
“ アンチショックシステム ” の有無で分かれる兄弟モデル
三段折りたたみ式トレッキングポール『マカルーFXカーボンAS』&『マカルーFXカーボン』
トレッキングポールを代表するメーカー【LEKI】は、微妙な個性の差によって、さまざまなモデルを作り分けている。登山用でいえば、まずは「形状」で大きく2種類に大別でき、ひとつは“伸縮式”で、もうひとつは “ 三段折りたたみ式 ” 。メインとなる「素材」も2種類で、“ アルミ ” と “ カーボン ” 。このような「形状」と「素材」の違いに加え、さらに細かなディテールの組み合わせにより、多様なモデルが生み出されている。
ここでピックアップするトレッキングポールは、“ 三段折りたたみ式 ” で “ カーボン ” 主体の2モデル。
「マカルーFXカーボン」(左)と、「マカルーFXカーボン AS」(右)だ。
2モデルの違いとなる “ アンチショックシステム ” とは?
これらの違いは、モデル名通り。「AS(Antishock System=アンチショックシステム)」を搭載しているか、していないかの違いだ。
“ アンチショックシステム ” とは、ポールを地面に突いたときの衝撃を柔らかく緩和する機能のことである。
現在のLEKIのアンチショックシステムは、ポールの先端近くにつけられている。以下の写真の左が、アンチショックシステムを搭載している「マカルーFXカーボンAS」で、右が搭載していない「マカルーFXカーボン」だ。
「マカルーFXカーボンAS」のグレーの部分が、そのアンチショックシステムとなる。
「マカルーFXカーボンAS」と「マカルーFXカーボン」の違いは、ずばり、この部分だ。「マカルーFXカーボンAS」はアンチショックシステムを搭載するためにポール先端のシャフトをアルミ製にしているが、「マカルーFXカーボン」はフルカーボン。その違いによって、「マカルーFXカーボンAS」の重量は2本セットで約534gとなり、「マカルーFXカーボン」は約508g。どちらも相当に軽いが、「マカルーFXカーボン」はより軽量というわけである。
その他の部分は基本的に同じなので、ここからの説明は両者共通だ。さらにいえば、他のLEKIのトレッキングポールとも共通する特徴も持っている。今回のレポートと重複する説明もあるが、このウェブサイトの「シェルパライト&マカルーライト」のレポートも併せて読んでいただくと、より理解が深まるだろう。
“ 三段折りたたみ式 ” でも20㎝も伸縮
これらのトレッキングポールは長さの調整が可能。引き伸ばすと、次のような状態になる。
上がいちばん長く伸ばした状態で、130㎝。下がいちばん短くした状態で、110㎝。つまり20㎝の幅で調整できる。
対応身長は “ 155~185+5㎝ ” 。多くの日本人の体格に合うと思われるが、小柄でこの長さでは使いにくいと感じる方は、同じLEKIでも少し短い女性向きモデルを試してみるといい。
長さの調整は、片手でも操作できるレバーを使った “ スピードロック2+システム ” 。
台座には軽量で強度も高いアルミ素材を採用している。また、レバーの裏側にはダイヤルがあり、それを回せば締め付け具合を調整できる。
手首にかけるストラップは、肌なじみのよい “ スキンストラップ ” 。
グリップヘッドの上部をストラップごと引き上げるとロックが解除される構造で、長さの調整もしやすく、汗の乾きが早いのも長所だ。
グリップはヘッド部分が中空で、トレッキングポールを軽量にすることにも貢献している “ エルゴン・エア ” 。
場合によっては、このヘッド部分を持ち、トレッキングポールを長めにして使用することもできる。
湿気もこもらず通気性が良い丈夫なスタッフバッグは、うれしい付属品だ。
なお、三段に折りたたんだ際の長さは、どちらも40㎝となっている。
歩いてみてこそわかる、アンチショックシステムの機能性
さて、アンチショックシステムの有無によって、どれくらいの差が生まれるのか?
夏から冬までシチュエーションを変えながら、僕は長い期間、テストを繰り返した。
はじめにテストしたのは、夏山であった。
少々わかりにくいが、僕は上の写真で左手に「マカルーFXカーボン」、右手に「マカルーFXカーボン AS」を使っている。
地面が柔らかな土でできた登山道ではアンチショックシステムの有無の差はあまり感じられなかったが、違いがよくわかるようになったのは、標高を上げて地面に石や岩が多くなってからであった。
言うまでもなく、アンチショックシステムがある「マカルーFXカーボンAS」のほうが衝撃吸収性は高く、腕に感じる負担は少ない。
地面に先端を突いたときのことを音で表現するとしたら、「マカルーFXカーボンAS」は “ カンッ ” という軽い響きなのに対し、「マカルーFXカーボン」は “ ゴンッ ” という少し重い響きだ。
次は「マカルーFXカーボンAS」のアンチショックシステムに体重をかけ、押しつぶしてみたときの写真である。
左が体重をかけていない状態で、右が思いっきり体重をかけた状態。ポールが5㎜ほど沈み込んでおり、この反発力で衝撃を吸収していることがイメージできる。
こちらは「マカルーFXカーボン」。同じように左が体重をかけていない状態で、右が体重をかけた状態だ。
ほとんど変わりはない。だがよく見ると、わずかながら体重をかけたほうは先端のゴム(スリップレスラバーロング)がつぶれて太くなっているのがわかる。このゴムの分だけは「マカルーFXカーボン」もいくらか衝撃を緩和しており、アンチショックシステムを搭載していなくてもただの木や金属の杖とはやはり違うのであった。
地味でも実力が高い “ スリップレスラバーロング ”
このスリップレスラバーロングは石突きと呼ばれる金属チップを覆い、地面に深く突き刺さらないためのプロテクターである。
旧タイプのLEKIのプロテクターよりも刻まれている溝が深く、少々摩耗しても滑りにくいのが特徴だ。岩の間に挟まったようなときでも脱落が少なく、紛失の恐れが減っているのがありがたい。
なお、三段折りたたみ式ポールにはスリップレスラバーロングの他に、半透明のクリアキャップも付属している。
“ スリップレス ” というくらいあって、地面へのグリップ力も上々である。
旧タイプのプロテクターならば滑ったかもしれないような湿った土の上でも、想像以上にスリップしない。安心感が高いのである。
土がこびりつきにくいのも長所だ。
小さなパーツであるプロテクターだが、じつはトレッキングポールがじかに地面に接する部分に位置する最重要ポイント。シューズで言えば、アウトソールだ。このパーツの良し悪しは、トレッキングポールの使い心地を大きく左右する。その点、僕が知る限り、LEKIのスリップレスラバーロングは他社と比べても文句なしの機能を持っていると思われる。
以前はトレッキングポールの石突きを露出させたまま使っている登山者も多かった。だが、今はスリップレスラバーロングのようなプロテクターをかぶせて使用するのが当たり前になった。プロテクターを装着せず、石突きをむき出しにしたままで使用すると、地面に深く刺さりすぎ、植生を傷めたり、登山道を突き崩したりする恐れが高いからである。
プロテクターを外し、沢歩きや雪山でも活躍
では、石突きを露出させて使うのはどういうときなのか?
僕はあるとき、渡渉を繰り返す沢歩きのときに、渓流シューズを履きつつ、スリップレスラバーロングを外したトレッキングポールを利用した。
いかに “ スリップレス ” なプロテクターであろうとも、河原のような石や岩しかないような場所、なかでも水中で苔を生やして滑りやすくなっているような区間では、石突きをむき出しにして使ったほうが滑りは圧倒的に少ない。山中の状況に合わせれば、無理にプロテクターを使う必要はないのである。
同じ意味で、北アルプスの稜線のような岩だらけの岩稜帯でもスリップレスラバーロングを外したほうが確実に地面の凹凸をとらえ、安全に行動できる場合がある。もちろん登山道を傷めないように配慮しつつ、必要な区間のみに限定しての話だ。
雪上で使用する際は、むしろスリップレスラバーロングを外すことを忘れてはいけない。ゴム素材は雪の上で滑りやすく、石突きを露出させていたほうが雪上に鋭く食い込むからだ。むろん雪の上ならば、植生や登山道にダメージを与えることもない。
しかし、雪山登山をしている初心者を見ると、プロテクターを付けたまま使っている人がかなりいる。無雪期と積雪期ではトレッキングポールの使い方が少々異なることは覚えておいていただきたい。
(自撮り撮影のカメラ操作を行う関係で、グローブを外した状態で撮影)
また、雪上では付属の小さなバスケットを、雪に深く突き刺さらないように大型の “ ツアリングバスケット ” に付け替えることも重要だ。
ただし、「マカルーFXカーボンAS」「マカルーFXカーボン」ともに、ツアリングバスケットは付属していない。雪上でも使いたい方はオプション品として買い足したい。
雪上ではアンチショックシステムの意味は少ない。雪自体にクッション性があり、いわば自然のアンチショックシステムが効いているためである。氷のように凍り付いた雪面では話が別だが、そもそもそんな環境ではトレッキングポールは役に立たず、アイスアックスの出番だ。
ともあれ、一般的な雪山ではツアリングバスケットは非常に有効である。
上の写真の左は通常のバスケットで、右がツアリングバスケットを装着した状態だが、一目でわかるように雪に接する面積が5~6倍にもなっている。これにより石突きは雪中に突き刺しつつ、ポールは過度に潜り込まない。
とはいえ、早朝や陽射しがない悪天時であれば雪が締まっており、通常のバスケットでも雪に深く突き刺さらないこともある。
だが、気温が高い日中や春先になると、大型のツアリングバスケットがないとトレッキングポールは使いものにならない。
下の写真の左は通常のバスケット、右はツアリングバスケットを付け、雪中に突き刺した状態だ。
ポールの「LEKI」のロゴを見るとわかるように、通常のバスケットはツアリングバスケットよりも30㎝近くも深く雪のなかに突き刺さっている。どちらも「マカルーFXカーボン」なのは、雪上ではアンチショックシステムの機能が必要ではないため、左右をそろえたためだ。
トレッキングポールに体重をかけて歩くと、ツアリングバスケットでも雪中に深く食い込むことはある。
だが、ツアリングバスケットは雪山での機動力を格段に上げてくれるのは間違いない。
なお、どちらのトレッキングポールもグリップは “ エルゴンサーモロング ” 。熱の伝導性が低く、断冷力がある柔らかな素材だ。
このテストのときは気温が高くてグローブを外して歩いていたが、肌が直接触れるグリップが冷たい素材だったら、さすがに手先が低温で痺れてしまっただろう。こういうときには “ サーモ ” なグリップの実力がよくわかる。
アンチショックシステムが活きるシチュエーション
さて、話をアンチショックシステムに戻そう。
土や落ち葉のような柔らかな地面の上で使っているうちは、それほど差を感じなかったアンチショックシステムの有無だが、岩や石が多い硬い地面の上を長時間歩いていると次第にその違いがわかってくる。「マカルーFXカーボンAS」は腕全体、とくに肩へかかる衝撃が減っている実感があるのだが、それに対して「マカルーFXカーボン」はわずかながら腕が疲れやすいのだ。
率直にいえば、「マカルーFXカーボンAS」は「マカルーFXカーボン」よりも機能性が高い。価格を少し上げたうえでアンチショックシステムを搭載しているのだから、それも道理だ。しかし、柔らかな地面や雪の上では両者の使い心地にほとんど差はない。また、アンチショックシステムがなくても腕の疲れをあまり覚えない人もいるはずである。
衝撃を緩和するアンチショックシステムの優位性が生きてくるのは、岩や石が多い場所だ。ゆえに、森林限界を超えた高山を歩くことが多い人には「マカルーFXカーボンAS」が適している。だが、低山の森林帯が中心であれば、「マカルーFXカーボン」でも十分だろう。アンチショックの有無が大きな違いの2モデルだが、自分の用途に合わせて選び分けるとよさそうである。
工夫あるシステムで、収納性や組み立てやすさも上々
ところで、僕がこの2モデルが持つ機能でもっとも気に入ったのは、“ エクスターナルロッキッングデバイス ” だ。金属の小さなボタン(レバー)を押しただけですばやくロック解除できる仕組みである。
上の写真を見てもわかるように、ボタンを押しただけで瞬間的にポールが縮み、ポール全体のテンションが緩むのがいい。
テンションが緩んだら、あとは三段に折るだけ。じつに簡単である。
反対に伸ばすときもすぐにロックがかかって、すぐにまっすぐ固定できる。シンプルだが、よく考えられた仕組みだ。
三段に折れるトレッキングポールの大きなメリットは、小型~中型バックパックのサイドポケットやバックパック内に収納しやすいことである。
ただし、山行時以外の移動ではバックパック内に収納するか、付属のスタッフバッグに収納して手持ち移動を心掛けよう。
伸縮式のトレッキングポールに比べればパーツが多い分だけ複雑な構造になりがちで、価格が高くなることもあるが、収納性は伸縮式タイプを大いに上回る。以前はアルミよりも折れやすいといわれていたカーボンだが、今は素材の進歩で頑丈になり、なにより軽量性に秀でている。“ 三段折りたたみ式 ” で “ カーボン ” のトレッキングポールは、これからの主流になりえる。あとは、アンチショックシステムが必要かどうか? 「マカルーFXカーボンAS」と「マカルーFXカーボン」のどちらも優秀なトレッキングポールだが、使う人の好みやどんな山で使いたいのか、それ次第でセレクトが変わってきそうである。
文・写真=高橋庄太郎
今回レビューした商品
マカルー FX カーボン AS ¥29,920 (税込)
カラー/100グレー 全1色
サイズ/110~130cm(収納時40cm)
重量/約534g(組)